研究課題/領域番号 |
23650538
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
滝口 哲也 神戸大学, 都市安全研究センター, 准教授 (40397815)
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キーワード | ヒューマン・インターフェース |
研究概要 |
これまで本研究代表者は,工学,教育的側面から音声信号解析による「脳性麻痺構音障がい者のコミュニケーション支援手法の研究」を行っているが,発話の聞き取りも困難であり,音声解析だけでは解明出来ない点もある.そこで本研究において,生理学的側面から脳磁界測定装置を用いた言語コミュニケーション解析に注目した.コミュニケーションにおいて人が言語を話す時の脳活動を研究するものであるため,音素間,音節間の変化に追従する必要がある.すなわち数msecの時間分解能で観測可能な最新鋭のMEG 脳磁界測定装置が必要不可欠となる.平成23年度から継続して,平成22 年5 月に導入された最新鋭のMEG 装置が備わったワシントン大学知脳科学研究所今田俊明教授と共に,「認知工学」「脳科学」の融合による新たなコミュニケーション科学の創出を目指し,言語神経系の解析を用いたユニバーサルコミュニケーションの研究を進めた.H23年度では,MEG 信号における外部ノイズに頑健な解析手法として,マルチカーネル学習(MKL)を用いた高次元空間での最適な特徴量空間の選択法の提案を行い,言語脳解析における新たな機械学習法に基づく特徴量抽出法及び識別モデル手法の有効性を示した.しかしMKL法は非常に計算時間がかかり実時間での処理が困難である.そこでH24年度では,実時間処理可能なAdaBoost法による解析手法を提案した.評価実験結果より,MKL法と比較して,同程度のタスク識別率が得られ,また重要な脳活動が行われた領域,及び脳活動の時間帯の解析も同時に行われ,かつ実時間処理が可能であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度検討したAdaBoost法は,単純な識別器を複数組み合わせることによって精度の高い識別器を構成する手法である.このAdaBoost法によって,H23年度に検討したマルチカーネル法と比較して計算量が大幅に削減され,実時間処理が可能となった.提案したAdaBoost法では,MEGセンサーの各チャンネルを特徴量の各次元に対応させることにより,弱識別器の重みから重要な脳領域を解析出来るようにした.実験結果において脳言語野にて(刺激提示から100 ms前後の区間にて)大きな重みが得られ,提案手法の有効性が確認出来た.この結果は,H23年度のマルチカーネル法と同様の解析結果となった.またAdaBoost法でも,重要な特徴量空間の選択手法(特徴量抽出),及び高精度な識別学習を同時に実現可能であり,2 クラスタスク(「あ」「お」の母音識別)に対して,4人の被験者に対して平均識別率91%を達成することが出来た.当該研究成果は,信号処理に関する国際会議APSIPA Annual Summit and Conference 2012 (Asia-Pacific Signal and Information Processing Association)にて採択され,研究発表を行っている.H24年度は主に識別器の改良を遂行したため,特徴量抽出については計画からやや遅れているが,H25年度にて継続して研究を遂行し目標を達成する.
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今後の研究の推進方策 |
近年,特徴抽出器を複数積み重ねた深い構造を持つ機械学習器(Deep Learning)を用いた手法が,音声認識や画像認識などの分野において高い精度を上げることで注目を浴びている.Deep LearningにはConvolutional Neural NetworksやDeep Belief Nets (DBN),Auto Encoderなど,特徴抽出器や教師の有無などにより様々なタイプが存在するが,いずれも深い階層構造を持つことで,上層へいくにしたがって下層の情報を複雑に集約させるため,最上位の受容野において入力特徴をより表現することが可能となる.中でもDBNは2006年にHintonらによって効率的な学習アルゴリズムが提案され,以降DBNによるパターン認識が盛んに研究されている.本研究代表者らも,これまでにDBNを用いた信号解析の研究を検討している(例えば,中鹿,高島,滝口,有木“Deep Belief Nets による低次元空間表現を用いた声質変換の検討”,日本音響学会2013年春季研究発表会, 3-P-46b, pp. 517-520, 2013年3月).本研究では,このDBNを用いて,マルチチャネルMEG 時間系列データに適用した際の課題(非線形性)を解決する.この手法をランダムプロジェクション法等の特徴量抽出法と組み合わせることにより,更に識別精度の改善が可能となる.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究にて取り扱うMEG データは外部雑音の影響を受けやすいため,同じタスクにて繰り返し収録を行うことになる.またチャネル数も多いため,膨大なデータ量となるのは避けられない.最適特徴量空間の自動発見アルゴリズムの発見,及びその有効性を示すためには,様々な条件下(パラメータ制約下)で実験を行う必要がある.本申請研究課題を効率よく遂行するためには,現在の計算機環境では十分ではなく,引き続き高速な計算機サーバー,ファイルサーバーが必要不可欠である.また,研究成果発表や情報収集を音声関係の世界最大規模の国際会議Interspeech,日本音響学会研究発表会等にて行う予定である.
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