研究課題/領域番号 |
23650559
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鬼頭 秀一 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (40169892)
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研究分担者 |
大和 裕幸 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (50220421)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 社会技術 / コミュニティ創造 / オンデマンド交通 / 高齢化社会 / 縮小社会 / 社会的公正 / 最適化 / 公共政策 |
研究概要 |
オンデマンド交通の社会創造型社会技術の可能性について、そのコンセプトのあり方と、人文社会科学と工学との学融合の可能性について、議論を積み重ねてきた。研究代表者も研究分担者も同じ大学の同じ部局の所属であるため、経費をかけることなく、概念的な可能性の問題と、学融合によって何が可能になるかということに関して議論を詰めてきた。その結果、オンデマンド交通における、最適化のあり方について、「遊び」をもたせることが大変重要であることがわかってきた。また、そのことによって、従来の、「より早く、より大きく」という形の、社会的効率性重視の最適化によって切り捨てられてきた社会的弱者に配慮し、社会的公正を可能にする技術のあり方が可能になることが判明した。つまり、要素技術としての工学システムの最適化に関して、「社会的効率性」を相対化するような社会的再構成による新しい社会技術のあり方が理論的に明確化されてきた。このことにより、「社会的効率性」ということを軸にして、最適化のあり方の多元化という理論的な枠組みによって、人文科学的な調査と工学的なシステム構築との学融合を可能にできることが判明したので、その理論的な枠組みでオンデマンド交通の社会調査、工学的システム構築のための予備調査を行った。全国でフルオンデマンドでオンデマンド交通を実践している唯一の自治体である三重県玉城町をフィールドとして研究を行うこととしているが。玉城町においては、平成23年度まで国の補助金で運用していたオンデマンド交通が、平成24年度に補助金無しで運用することが決まっているため、本格的な社会調査は平成24年度に行うとして、新しいシステムの切り替えのあり方(特に、有料化するか、税金でまかなって無料化で行うのか)似ついての、社会技術としての可能性について、予備調査を行い、理論的に検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象者となっている、玉城町において、オンデマンド交通の政府からの補助金が平成23年度まであったが、平成24年度から打ち切られることになり、財政状態が変わることから、社会技術としてのオンデマンド交通の実質的意味が平成24年度から大きく変化することとなった。そのため、その財政状態の変化をきちんと見ることが、今回の挑戦的萌芽研究の目的として重要だという判断を行った。そのため、社会科学調査とそのことと工学的な課題との関係に関しては平成24年度に集中的に行うとして、平成23年度は、コミュニティ創造型社会技術の理論的な検討を中心におこなうこととした。また、人文社会科学的な社会調査としては予備調査に留め、工学的研究との具体的な学融合的な対応に関しては、研究の調整に留めた。そのため、平成23年度においては、ほとんど経費を使用することなく、理論的な研究と予備調査に限定して研究を遂行したため、見かけ上研究が遅れているように見えるが、平成23年度から24年度への玉城町におけるオンデマンド交通の切り換えに関しての調整と予備調査は済んでおり、平成24年度に本格的に調査に臨むことになるため、過度に遅れをとっているわけではない。玉城町の平成24年度におけるオンデマンド交通のあり方に関しては、3月になって、やっと、無料化で税金を投入することによって継続していくことが決まった。無料化により税金を投入して行うことは、逆に、税金を投入する社会的意味が多様な形で存在することを町が認めたことになる。実際に運用することでそのことの学術的な意味について検討を加えることはますます重要な課題になっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度から、玉城町のオンデマンド交通が補助金無しで、町の一般会計から支出されるため、そのことに伴い、オンデマンドバスの社会技術の意味が大きくなる。また、税金を投入することに伴い、同じフルオンデマンドで施行するにしても、バスの台数の投入に関して財政的な問題が出現し、「社会的効率性」という、平成23年度に明らかになった軸に加えて、「個人的効率性・利便性」という新たな軸を加えて、社会と個人の二つの効率性に関して、このオンデマンド交通がどのような意味を持つのかを検証していくことが必要になってくる。また、この二つの効率性と、その対局にある、「社会的公正」「社会関係性」を全体として見通した形で、調査を行い理論的に整理することが必要になってくる。そこで、平成24年度はそのような理論的な枠組みの中で、精力的で集中的な人文社会科学的な社会調査を行い、その結果をもとにして、結果を計量的に分析し、工学的な対応の関係について研究をすすめることになる。そのことによって、オンデマンド交通のコミュニティ創造型社会技術としての意味が明らかになると同時に、このような問題を、人文社会科学と工学においてどのような形で学融合的な研究を進めていけるかという、理論的な、かつ実証的なモデルを提供していけると思われる。また、公共政策における、税金投入における、社会と個人の効率性と、社会的公正と社会的関係性の中での意味を計量的に検討することが可能になり、公共政策の可能性についても示唆を与えることができると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
人文社会科学的な社会調査としては、4月から予備調査に入る。具体的には集中的な調査を行うために、3~5集落を選定して行うが、その玉城町内の集落の選定のための予備調査を行い、コミュニティのあり方、社会的な課題の状況から3~5集落を選定する。そして、大学院生を複数投入する事により、聞き取り調査を中心とした、集中的な社会科学的な調査を行う。その後、アンケート調査を中心とした統計調査も行う。そのような研究の過程から、オンデマンド交通の社会技術としての意味について、いくつかの指標を選定し、その指標に応じて、計量的な対応を行う。さらに、オンデマンド交通の設計の仕方によって、その結果がどのように変わるのか、また、特に高齢者の社会的関係性、コミュニティのあり方にどのように変化が現れているのか、具体的に検証していく。また、温泉や購買、病院など、社会の多様な領域における意味を検討して、今後のオンデマンド交通のシステム設計のあり方について、具体的に検証しつつ、高齢化社会、成熟社会におけるあり方について、モデル化を試みる。人文社会科学的な質的調査と工学的な計量的な分析を行うことによって、社会科学と工学との学融合的な研究を行っていく。
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