研究課題/領域番号 |
23650569
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 雅代 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 准教授 (90324392)
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研究分担者 |
三村 耕一 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80262848)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 14C年代 / アミノ酸ラセミ化年代 / 骨 / 微少量 / アルセンジャン |
研究概要 |
1. 本研究で扱う骨は年代が古いため、得られるコラーゲン量が少ないことが多い。そこで、少ない炭素量でも信頼性のある14C年代測定を可能にするため、新たに微少量炭素用のグラファイトラインを作成した。14C標準試料によるチェックの結果、0.1 mgの炭素量でも、十分に高確度・高精度の14C年代測定が可能であることが明らかになった。この結果は、これまで試料の炭素量が少ないために14C年代測定ができなかった試料に、新たに14C年代値を付与することができるものであり、考古学の分野に大きな意義をもたらすものである。結果を論文にまとめ、公表した。2. 平成24年3月に、筑波大の常木教授が中心となって行われているアルセンジャンA5-3洞窟遺構の発掘に参加し、本研究で用いる骨化石の採取を行った。アルセンジャンはイラン南部に位置し、ホモサピエンス拡散の拠点と考えられている。遺構は石器の型式に基づくと中石器時代から中期旧石器時代までの長いシークエンスを持っており、本研究における試料として最適と考えられる。骨の14C年代値の検証のため、骨同層から出土する炭化物も採取できた。3. 古人骨に関する基本的な研究を鎌倉由比ヶ浜から出土した中世人骨を用いて行なった。3体の中世人骨の部位毎のアミノ酸組成、14C年代値、炭素・窒素同位体比値(δ13C・δ15N)を詳細に調べた結果、δ13C・δ15Nは生前の病歴あるいは骨の代謝系の違いにより、部位によって異なるが、歯の部位を除いて、アミノ酸組成、14C年代値は違いが見られないことを明らかにした。4. 骨の14C年代測定のための試料調製法として、新たに限外ろ過法を試みた。限外ろ過法は、骨試料から外来炭素を効果的に除去し、正確な14C年代測定のために有効であるが、ろ紙からの汚染の可能性も示唆された。これらの結果を論文にまとめ、公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、特にアミノ酸ラセミ化速度算出のために必要とされる、骨の正確な14C年代測定のための基礎研究を主として行った。具体的には、微少量の炭素調製用のグラファイト化ラインの構築、ならびに限外ろ過法を用いた骨の試料調製法の検討、を行なった。いずれも順調に進み、前者により、これまでは測定が不可能であった0.1 mgの炭素量で、信頼性のある14C年代測定が可能になり、本研究の骨試料の分析が進むと考えられる。また、後者の限外ろ過法により、古く保存状態の良好でない骨試料においても、信頼性のある14C年代値を得ることができる目処がついた。これらの成果は論文として公表するまでに至った。しかし、一方で、イラン・アルセンジャン洞窟遺構の発掘許可を得るのに時間がかかり、骨試料の入手に時間がかかってしまったため、実試料での検証を行なうことができなかった。筑波大学の常木教授のご尽力により、イランでの発掘調査が可能になり、今後の研究に大きな進展が見られると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、イラン・アルセンジャン洞窟遺構から出土した骨試料の分析を具体的に推進する。昨年度、確立した限外ろ過法を用いた骨の試料調製法を用いて14C年代測定を行なうとともに、特に、骨のアミノ酸のラセミ化測定を集中して行っていく。夏頃までに、3月に採取した骨試料の14C年代分析を終えるとともに、ガスクロマトグラフによるアミノ酸のラセミ化率測定の基礎を確立する。夏以降は、実際に骨試料のラセミ化率測定を行っていく。5万年より古い骨が含まれていない場合は、夏に実施される予定になっている別の遺構での発掘に参加し、新たな試料の入手の努力を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
骨試料の14C年代分析ならびにアミノ酸のラセミ化測定のために必要な物品費を主として使用していく。研究成果発表のための旅費も、必要に応じて使用する予定である。また、論文作成のための英文校閲費も予定している。
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