(1) 5万年より古い骨のアミノ酸ラセミ化年代を求めるにあたっては、同じ埋没環境の5万年より若い骨の14C年代値からラセミ化速度を求めておくことがまず必要となる。そこで、骨の本質成分を損失することなく、外来炭素を効果的に除去する方法として限外ろ過法を試み、骨の信頼性のある14C年代測定を可能にした。さらに、少ない試料炭素量でも高確度・高精度な14C年代測定を可能にするため、新たに微少量炭素用試料調製システムを構築した。今年度は、これらの手法の信頼性チェックを行い、それぞれ結果をまとめてNucl. Instr. and Meth. in Phys. Resに公表した。以上により、微少量骨試料の14C年代測定の基盤が整った。 (2) 昨年度採取したイラン・アルセンジャン洞窟遺跡の1~5層の骨試料に対し、まず骨試料と同層から出土した炭化物の14C年代測定を行い、層の年代推定を行った。その結果、2層においては約3万年、3層においては約4万年、4層以下は5万年より古い年代を示し、この遺跡は後期~中期旧石器時代の長いシークエンスをもっていることが明らかになった。骨試料の分析も開始したが、骨ゼラチン収率が0.3%以下であり、炭素/窒素比からも良好なゼラチンとは言えず、アミノ酸を抽出するのは断念した。今後、保存状態の良好な骨を得ることが、本研究遂行のための最重要課題である。 (3) 鎌倉由比ヶ浜から出土した3個体の中世人骨に対し、部位毎の14C年代値、炭素・窒素同位体比、アミノ酸組成の違いについて調べた。骨の部位によってアミノ酸組成に違いは見られなかったが、歯は骨より数十年古い14C年代を示し、また、骨の部位毎にわずかながら年代差が見られた。炭素・窒素同位体比も骨の部位によって異なる傾向が見られ、生前の骨の代謝速度の違いによる可能性が示唆された。一部の結果を、Radiocarbonに公表した。
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