研究課題/領域番号 |
23650571
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研究機関 | 札幌学院大学 |
研究代表者 |
臼杵 勲 札幌学院大学, 人文学部, 教授 (80211770)
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研究分担者 |
正司 哲朗 奈良大学, 社会学部, 准教授 (20423048)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 文化遺産 / 3次元計測 / デジタルアーカイブ / 輝度投影相関 |
研究概要 |
今年度はモンゴルにおいて大規模遺跡の凧・ラジコンヘリを利用した,空中写真撮影法の開発を試行した。軽量ヘリを機能・操作性・堅牢性を考慮して選択し,GPS・小型ビデオカメラをそれぞれ取り付け,遺跡・遺構の撮影を行い,軌跡をもとに位置測定をしつつ動画像撮影を行い,映像を取得した。撮影した動画像は,Motion JPEG形式であり,フレーム間の圧縮が行われていないため,容易に動画像から静止画像(フレーム画像)を抽出し,各フレームの時刻情報を推定することができた。GPSで得られた時刻情報とフレーム画像の時刻情報を照合し,フレーム画像の大まかな位置を特定し,遺跡の図面とフレーム画像との対応付けを行った。フレーム画像間の対応付けは,画像処理を利用した。輝度投影相関を用いて,フレーム間画像の合成を行う.動画像を利用しているため,フレーム間の位置情報のずれは微小であると仮定することができるため,平面射影変換をする必要がない.平面射影変換は,フレーム画像間から最低4つの対応点があれば計算することができ,簡易に画像を合成することができる.輝度投影相関は,フレーム間画像で輝度の分布(x方向,y方向の2次元)を計算し,各方向で輝度相関が最も高い位置で画像を合成するものである.これを連続的に実施することで,高解像度の合成画像を取得することができる安定性・静止性などに問題点があるものの,動画からの静止画変換により明瞭な画像撮影も実行できた。特にヘリでの撮影は撮影位置と水平性のコントロールも一定程度可能なため,有益性が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
11年度は,大型遺跡の記録化を中心に,3次元計測の前提となる撮影方法の検討を行い,機材や方法について具体的な見通しを得ることができた。さらに撮影映像の解析方法やステレオ画像化の方法も検討し,動画を利用した静止画像の作成においては,当初の予想に近い結果が得られた。実用化の見通しは十分に達成できたと考える。また,簡便な機材での撮影が可能であることかから,広範な活用が期待できる。ただし,バッテリー容量・機材の安定性については,特にモンゴルのように強風が頻繁に発生する地域では,さらに検討の余地があり,より精度の高い計測のための撮影法の改善が必要である。さらに得られた画像から,精細な3D測量図を作成する方法についてはさらに検討していく必要がある。現時点では,得られた画像から立体視が可能な水準の画像は取得できたため,画像の質の向上が見込めれば,それを利用した測量,あるいは立体画像の作成は問題なく行えることは確認できたため,そのための具体的方策を検討していく必要性が認識された。なお,今年度は遺物の計測については,検討がすすまなかったため次年度以降は具体的な試行を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度に実施した空中写真撮影法の改善を行うとともに,発掘で出土した遺物の簡易3次元計測手法の開発を試行する.具体的には,以下の2点を実施する。 まず,空中写真撮影法の,ラジコンヘリコプターの安定性の改善である。軽量なものを利用したため,風の影響を受け,安定した動画撮影が実施できず,合成した画像にモーションブラーの影響が残った。この改善のために、安定した撮影環境を整備しつつ,画像処理を利用して,モーションブラーの影響を低減するフィルターを設計する。 また,遺物の簡易3次元計測に関しては,プロジェクタと一眼レフカメラを利用した3次元計測方法の開発を試行する.対象物体にパターン光を投影し,その像を撮影することで,3次元計測を行う手法は従来から提案されているが,対象物体の材質や色などに応じて,投影するパターン光を変化させたり,色を変化させたりする研究はあまりなされていない.プロジェクタとカメラを利用する場合には,パターン光の境界線を安定的に抽出することが,安定的な3次元計測を実施できる条件の1つである. 次に,3次元計測の精度に影響するのが,カメラおよびプロジェクタのキャリブレーションである.既知の対象物体に対して,パターン光を投影し,カメラおよびプロジェクタの特性を数値化することが必要である。今後は,出土した遺物の特徴を反映したパターン光のパターンと色(波長)を検討し,プロジェクタおよびカメラのカメラキャリブレーション手法の開発を行う。また,既存のレンジファインダーと開発手法の精度比較を実施し,簡易に安定した3次元計測装置の開発を目指す.さらに,近赤外線波長を利用し,可視光波長と近赤外線波長を分離できる光学系の設計を行い、パターン光の境界線を抽出することを検討する。さらに,計測制度の向上のためのカメラ・プロジェクターのキャリブレーション法について,具体的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
野外計測については,より安定性の高いラジコンマルチリコプターを購入し,風の影響を極力受けない撮影方法の確立を目指す.機材のの大型化により,可能積載量を考慮して,撮影カメラ,GPSの精度も検討し,カメラのハイビジョン化,およびGPSの精度向上を目指す.以上の作業はモンゴルにおいて実施する予定であり,機材の軽量化についても検討する。また,マルチコプターは操作に熟練が必要であり,墜落などによる機器の損傷が激しい.そのため,簡易に空中撮影するためには,地上で制御できる簡易なものである必要がある.このため,H24年度では,国内でバルーンを使った空中撮影に関しても試行する.バルーンを利用し,地上からロープなどを用いてバルーンを誘導することで撮影経路を計画できるため,凧で撮影する以上に、経路・高度が安定する。 遺物計測方法については単焦点タイプの小型プロジェクタを導入し,パターン光を投影する際の焦点ずれを防止し,境界面の安定した抽出を目指す.さらに,ディジタルカメラ側では,ある波長のみを通すフィルターをレンズに装着することで,パターン光とそれ以外を分離できる光学系を設計する. 作業において,撮影・計測機材のキャリブレーション法の開発も同時に進める。以上の作業には,国内・国外の旅費,機材購入費を必要とする。また,資料整理のための謝金を執行予定である。
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