研究課題/領域番号 |
23650571
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研究機関 | 札幌学院大学 |
研究代表者 |
臼杵 勲 札幌学院大学, 人文学部, 教授 (80211770)
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研究分担者 |
正司 哲朗 奈良大学, 社会学部, 准教授 (20423048)
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キーワード | 文化遺産 / 3次元計測 / 大型遺跡 / 空中撮影 |
研究概要 |
24年度は大規模遺跡の存在するモンゴルにおいて、空中写真撮影法の改良を試みた。23年度において、GPS・小型ビデオカメラによる撮影とMotion JPEG形式画像の高解像度化に概ね見通しが得られたが、撮影の安定性に課題が残った。そのため、それらの改良と撮影機材の高性能化を目的に、複数の上昇器を持つマルチコプターを導入し、空中撮影を試行した。しかし、この種の機材は撮影機材の搭載により、飛行バランスが不安定になり、設定の調整が主たる作業となった。そこで、同時に、不安定な撮影環境で撮影された画像群から画像処理を利用することで、どの程度、高解像度化が実現できるを検討した。具体的には、簡易なラジコンヘリコプタとGPS・小型ビデオカメラを利用して、遺跡を上空から撮影し、撮影された画像群から画像特徴を抽出し、画像間の対応付けを自動化することで、画像群を貼り合わせ、高解像度化を実現した。 上記と並行して、小範囲での3次元撮影を可能にするため、大型1脚を用いた撮影法を検討し、大型の1脚とデジタルカメラを用いる方法を開発し、約5mの高さからの俯瞰・垂直撮影を可能とした。30m四方程度の範囲を俯瞰撮影、移動による全体の垂直撮影も可能である。画像を利用した写真測量を測量ソフトで行ったところ、良好な結果が得られた。特に石造遺構など、複雑な形状の計測に短時間で効果が得らた。測量結果は点群データにから3Dデータへの変換が容易である。機撮影材は軽量で経費もカメラ以外では数万円にとどまり、海外調査等に簡単に導入できる。しかし、地上からの操作性においてまだ改良部分がある。 単焦点タイプの小型プロジェクタによる3次元スキャニングについては、単焦点プロジェクタ、カメラ、キャリブレーション、パターン光の検出アルゴリズム、計測対象の範囲についての検討を行い、実用化に向けての精度向上を目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は、空中撮影の方法について検討し、安定した撮影環境を実現させるための機材の選択・調整にさらに作業が必要であることが確認された。そのため、大型遺跡への対応についても、他の機材の検討の必要性も認識できた。空中撮影法がまだ検討段階にあるため、カメラキャリブレーション等の調整等が必要である。しなしながら、撮影環境が不安定な状況で撮影された画像群から、画像特徴を抽出することで、ある程度の高解像度化が可能となった。この実験によって、画像処理とマルチヘリコプタによる安定撮影を併用することで、精度の高い画像合成を可能にした。 一方、視点を変え、海外調査等で対象となることの多い比較的小規模な遺跡への対応を目指した1脚を用いる撮影法の開発は、即座に実用可能であることが確認できた。地上からのカメラ操作の改善が必要であるが、大きな成果と考えている。また、簡便な機材での撮影が可能で、導入も容易であることかから、広範な活用が期待できる。また、精細な3D測量図の作成方法については、市販の写真測量ソフトを活用し、良好な結果が得られた。高度撮影方法が確立できれば、大型遺跡についても対応が可能となる。 単焦点タイプの小型プロジェクタによる3次元スキャニングについては、カメラキャリブレーションを簡易にするため、カメラの内部パラメータ、外部パラメータともに予め、固定した環境で撮影している。このため、対象がカメラの中心座標値から外れるほど、レンズひずみや焦点ぼけが起こり、3次元データの精度が悪くなることがわかった。また、対象物体の材質や色によって、プロジェクタから投影されるパターン光が検出できない場合があるため、安定した計測データの取得が出来なかった。これらの問題を改善させるために、撮影環境や対象物体の計測範囲の検討、パターン光の検出アルゴリズムの検討を行い、実用化に耐える精度の実現を目指した。
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今後の研究の推進方策 |
空中写真撮影法のさらなる改善を行うため、マルチコプターへの機材設置を、市販の組み込みキットや実用化されている空中撮影システムを参考にして行う。さらにバルーン等の他の飛行機材も検討を行い、小型デジタルカメラの搭載を可能にすることを試みる。安定した撮影環境を整備しつつ、さらに、24年度に検討した画像処理アルゴリズムを改良し、モーションブラーの影響の低減化を目指す。さらに、現在、GPSデータは、撮影時の軌跡などを確認するときにのみ利用していたが、カメラの方向、マルチコプターの速度などの数値データと画像特徴を併用することにより、さらなる高精細画像化を目指す。 また、1脚による撮影については、モニタによる視認のみで、地上からのカメラ操作に自由度が無かったため、タブレットPCを用いた地上からのリモート操作等の試行を行い、操作性の向上と、軽量化・簡便化を測る。 単焦点タイプの小型プロジェクタによる3次元スキャニングについては、対象物体に投影されたパターン光をカメラで撮影し、その画像中からパターン光の境界線の抽出精度は、計測精度に影響を与える。このため、対象物体に投影したパターン光の波長を段階的に変化させながら、複数回スキャニングし、パターン光の境界線を精度よく検出できるようにする。また、計測範囲を限定した、対象物体表面構造の3次元計測が実現できるシステムを構築する。具体的には、物体表面の微細構造が取得できるように、キャリブレーション、プロジェクタ、レンズなどを検討し、24年度までに検討したアルゴリズムを組み込む。さらに、3次元計測精度についての検討を行い、既存のレンジファイダと開発したシステムの精度比較も行う。 以上の成果を基に、簡便な高度撮影システムと単焦点プロジェクタを用いた3次元計測システムの実用化を目指す。また成果については報告書等で公開し、広く利用に供する。
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次年度の研究費の使用計画 |
野外計測については、撮影機材の設置の改善によるマルチコプターの安定性の確保、風の影響を極力排した撮影方法の確立、時に撮影機材の見直し、GPS精度の向上、カメラのハイビジョン化、機材の軽量化、バルーン・カイト等の利用の再検討を図り、簡便かつ安定した高度撮影手法を検討するため、機材・消耗品をする。とくに、撮影するカメラは高解像度でかつ軽量化のものが望ましく、ミラーレスカメラの購入も検討する。さらに、機材を積載するために必要なモータ出力を計算し、マルチコプターに積載するバッテリー容量を増強する。また、モンゴルの大型遺跡における実験を実施するために旅費を必要とする。 遺物計測方法については、計測範囲を限定した、対象物体表面構造の3次元計測が実現するために、現在、利用しているものでは、解像度が低いため、小型で単焦点タイプであり、高精細のパターン光が投影できるものを導入するとともに、撮影するデジタルカメラのレンズに関しても単焦点レンズを導入し、焦点ボケがない画像を取得できる環境を構築するための機材・消耗品を購入する。また、レンズフィルタや光学系の設計全体を見直すし、実用化に向けてパッケージ化するために必要な機材・消耗品を購入する。 以上の作業に関わる謝金も若干必要である。 研究の進行の確認と成果の取りまとめのため、国内旅費を必要とする。また、成果を簡潔にまとめた報告書の印刷費を執行予定である。
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