研究課題/領域番号 |
23650573
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
吉田 直人 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 主任研究員 (80370998)
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研究分担者 |
松島 朝秀 高知大学, 総合教育センター, 特任准教授 (60533594)
鴈野 佳世子 東京芸術大学, 美術研究科, 助手 (40570065)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 絵画復元 / 美術史 / 写真科学 / 文化財科学 |
研究概要 |
初年度である23年度は、本研究の対象と想定している戦前期の絵画資料写真の撮影技法に準じた色材撮影を行い、写真の濃淡データを検討することにより、本研究の可能性を検討した。感光特性の異なる2種類のフィルム、また2種類の光源で浮世絵を撮影した結果、白黒の濃淡に相違があることを見出し、さらに日本画で使用される色材色見本を撮影し、濃淡を数値化したうえで比較した。その結果、赤色や橙色色材ではフィルムの違いが、青色色材では光源色が濃淡に大きく影響することが判明した。従って、モノクロ資料写真から色材を推定するには、何よりも撮影条件を記録や再現実験などから可能な限り特定することが不可欠であり、それにより近い感光材料や撮影環境のもとで、色見本を撮影し、両者の写真の濃淡をマッチングして、元資料の色材を絞り込むという手順が必要になると判断した。 さらに、応用として、第二次大戦期に所在不明となり、大正末期に撮影されたモノクロ乾板写真のみが図像情報として現存している琉球第二尚氏王朝第18代国王・尚真王の御後絵(肖像画)の復元を試みた。このモノクロ写真に関しては撮影情報に乏しいため、現存資料である王冠の撮影実験により当時の感光剤や光色を推定した。この条件のもとで、美術史や歴史、有職故実などの見地から装束や装飾品の配色を複数想定し、琉球で用いられた色材によって作成した色見本の撮影を行い、最も近い濃淡のものを選択した。このようなプロセスを経て、御後絵全体の配色を決定し、復元に着手することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦前期の写真技法に沿った日本画用色材の撮影から、その種類ごとに感光剤と光源色による濃淡への影響に相違があることが判明した。これは、この研究目的実現のための重要な情報であり、今後撮影条件と色材ごとの相対的濃淡差との関係を数値化するための足がかりとなった。そして、詳細な撮影条件の確定が、彩色復元のために非常に大きな要素となることも確認できた。 また、御後絵の復元という作業の中で、資料写真の再現という手法を取り入れたことは、基礎的なデータをいかに実地に応用するかという手法を検討するなかで非常に大きな経験となり、今後の研究に役立つものであった。 このように、全く先行研究のないゼロからのスタートであるが、初年度のうちに基礎と応用の両面から本研究の実用可能性を高める結果を得られたことから「おおむね順調に進展している」との評価がふさわしいと結論した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)基礎データの収集:色材のみではなく、その塗りの厚みや筆致のバリエーションも増やして色見本を作成する。そして、そのモノクロ写真の相対的な濃淡を数値化して、撮影条件との関係性を明らかにし、色材推定のための基礎データとする。(2)撮影のデジタル化:現在は現行品のフィルムを使って戦前期の撮影技法を再現している。しかし、フィルム生産の縮小傾向が進んでおり、入手にも限界が生じると考えていることから、デジタルカメラによる再現の実現に向けた手法検討を行う。これは、より詳細かつ細かな撮影条件の違いにも対応するという目的もある。(3)応用手法の確立に向けた検討:御後絵の復元から得た教訓や問題点をベースに、他の絵画資料への応用と手法確立に向けて、さらに検討をすすめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費は実作品とモノクロ写真の両者が現存する資料の彩色材料科学調査に使う予定だったが、これを担当する研究分担者が異動となり、本務体制づくりのために実施ができなかった。この研究費は翌年度、この目的のために使用することとする。
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