初年度は資料写真の撮影技法に準じた色材のモノクローム撮影を行い、写真の濃淡データを検討することにより、オリジナルのからー推定可能性を検討した。感光特性の異なる2種類のフィルム、また2種類の光源で浮世絵を撮影した結果、白黒の濃淡に相違があることを見出し、さらに日本画で使用される色材色見本を撮影し、濃淡を数値化したうえで比較した。その結果、赤色や橙色色材ではフィルムの違いが、青色色材では光源色が濃淡に大きく影響することが判明した。従って、モノクロ資料写真から色材を推定するには、何よりも撮影条件を記録などから可能な限り特定することが不可欠であり、それにより近い感光材料や撮影環境のもとで、色見本を撮影し、両者の写真の濃淡をマッチングして、元資料の色材を絞り込むという手順が必要になると判断した。 最終年度はこの知見を活かし、第二次大戦で所在不明となった琉球王朝国王肖像画(御後絵)の配色と色材推定を、鎌倉芳太郎氏により大正末期に撮影されたモノクロ写真をもとに実施した。まず、現存資料から作った彩色見本の撮影実験結果などから、感光剤などの条件を特定した。その上で、同時代の琉球や中国絵画、また有職故実や歴史学的見地などをもとにして推定した衣裳や装飾品など図像各箇所の彩色見本を複数作成し、同様の条件で撮影した上で、鎌倉氏の写真との明暗比較を行いながら、候補を絞り込んだ。この結果は、さらに人文学的検討を経て、最終的な決定に至り、全体の復元模写に繋げた。この一連のプロセスにより、資料写真の再現撮影という方法論の完成をみた。
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