研究課題/領域番号 |
23650588
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田代 聡 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (20243610)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 放射線 / 抗がん剤 / ゲノム損傷 / クロマチン / クロマチン免疫沈降シーケンス法 / RAD51 / H2Aバリアント |
研究概要 |
本研究では、悪性腫瘍の治療に用いられる放射線や抗がん剤治療によるゲノムストレスが、損傷ゲノムを含むクロマチンに何からの刻印として記憶・継承される可能性を検証するために、1)ゲノム損傷誘導後のゲノム修復蛋白質のクロマチンへの結合、2)ゲノム損傷誘導後クロマチンでのヒストン構成の変化、について全ゲノムを対象にクロマチン免疫沈降シークエンス法を用いて解析する。 平成23年度には、ヒト繊維芽細胞株に抗がん剤処理によるゲノム損傷誘導後、経時的にゲノム修復関連タンパク質RAD51のクロマチンへの結合について、抗RAD51抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス法による検証に取り組んだ。まず、トポイソメラーゼII阻害作用を持つ抗がん剤エトポシド処理後30分後のRAD51抗体を用いた免疫沈降シーケンス解析では、二次性白血病の疾患特異的染色体異常として知られている11q23転座の染色体転座切断点集中領域へのRAD51の結合が確認された。この結合は、ゲノム損傷応答因子ATMの欠損細胞でより強く認められていた。さらに、11q23転座の染色体転座切断点集中領域以外にも、一部の染色体のテロメア近傍などへのRAD51の結合が認められた。現在、データの再現性を確認するとともに、エトポシド処理2週間後の細胞を用いたRAD51のクロマチンへの結合を解析中である。平成23年度に東電福島原発事故への対応のために遅れていた放射線照射直後、2週間後の細胞でのRAD51結合の解析には、今まで用いてきたRAD51抗体がなくなったため、昨年我々が作成した新しいRAD51抗体を用いる予定であり、そのための条件検討も現在行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、エトポシドに誘導されるRAD51のクロマチン結合についての解析は順調に進んだ。しかし、東電福島原発事故への対応のため、放射線照射直後および2週間後でのRAD51抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス法を用いた損傷クロマチンへのRAD51の結合パターンの検証を行うことができなかった。さらに、予定以上にRAD51抗体を使用してしまったため、新しく作成したRAD51抗体を使用する必要が生じた。現在、新しいRAD51抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス法の条件検討は順調に進んでいるため、平成24年度には研究の遅れを挽回することが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、新しいRAD51抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス法を行うことで、放射線照射直後、2週間後の細胞でのRAD51のクロマチン結合について解析を進めるとともに、エトポシド、放射線処理後のヒストンH2AX, H2AZの分布状態の変化についてクロマチン免疫沈降シークエンス法を用いた解析を行う。これらの実験結果と、エトポシド処理後の細胞でのRAD51のクロマチン結合およびヒストンH2AX, H2AZの分布状態についてゲノムワイドビューで検討することにより、ゲノムストレスの記憶・継承におけるこれらの分子の役割を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、H2AXおよびH2AX抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス法を行うための物品費とともに、前年度に施行できなかったRAD51抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス法のための物品費を計上している。また、研究補助のための謝金と第71回日本癌学会学術総会での成果発表および研究打ち合わせのための旅費が必要である。
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