BRCA2はDNA修復、複製、中心体増幅、および細胞分裂において重要な多機能の腫瘍抑制タンパク質である。我々はヒト乳がん細胞株MCF7において、野生型BRCA2(分子量:384 kDa)の他に分子量250 kDaのBRCA2フラグメントを見出した。これは他の乳がん細胞株SK-BR-3や子宮頸がん由来のHeLaS3でも同様に観察されが、良性乳腺繊維嚢胞症由来のMCF10Aや正常乳腺上皮由来のHMECでは検出されなかった。我々は多重反応モニタリング法(MRM)によりこの250 kDaのタンパク質がBRCA2であることを確認した。次にBRCA2を切断する可能性のあるプロテアーゼとして細胞膜結合型マトリクスメタロプロテアーゼMT1-MMPを考え、BRCA2のN末から約250 kDaの位置にMT1-MMPによる切断部位を見出し、この推定切断部位を含むリコンビナントタンパクを基質とした in vitro 解析で、MT1-MMPによるリコンビナントタンパクの切断を確認した。この切断は、MT1-MMPの阻害剤によって抑制された。そこで、切断型BRCA2の機能を明らかにするために、BRCA2の切断端に対する抗体を作成し、各々N端側BRCA2フラグメント(N-BRCA2)、C端側BRCA2フラグメント(C-BRCA2)を特異的に認識することを確認した。これを用いて、C-BRCA2が核fociを形成すること、10Gyの放射線照射後、野生型BRCA2の核fociは核中心部から核膜に向かい蛍光強度が増加するのに対しC-BRCA2の核fociの蛍光強度は核内均一であった。以上より、我々はBRCA2がMT1-MMPの基質であり、切断型C-BRCA2が組換え修復や乳がん発生に重要な役割を果たす可能性を示した。
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