研究課題
蛋白翻訳・細胞成長を司るmTOR複合体1は、様々な腫瘍組織において、その発がんや悪性進展過程におけるがん動態と深くかかわっている。我々は、mTOR複合体1活性制御が白血病幹細胞分化にとって極めて重要な因子ではないかと考え、その全容解明に取り組んでいる。本研究では、遺伝子改変白血病モデルを対象に、次世代マルチオミクスシステム解析を行い、白血病幹細胞におけるmTOR複合体1の標的分子の特定を試みた。mTORC複合体1に必須の複合体サブユニットであるRaptor遺伝子改変マウス(Raptor^<flox>)骨髄細胞に、レトロウイルスベクターによりMLL-AF9を導入し、急性骨髄性白血病モデルを作成した。本白血病では、タモキシフェンによって、任意のタイミングでmTOR複合体1活性を低下させることが可能となった。さらに、安定同位体標識したアミノ酸存在下で培養する手法(Stable Isotope Labeled Amino acid Culture : SILAC)を用い、白血病中の蛋白を標識した。白血病細胞から得られたリン酸化パプチドを濃縮しLC-MS/MSにより分析し、mTOR複合体1活性変化によるリン酸化ペプチドの変動を解析した。その結果、白血病細胞中約5000のリン酸化ペプチドを解析することができた。そのうちの63ペプチドで、mTOR複合体1欠損によるリン酸化レベルの低下を認めた。この中の19ペプチドではrapamycinによるリン酸化の低下が認められた。この結果により、アロステリック阻害剤と遺伝子欠損との間にmTOR複合体1活性低下に対する効果の相違があることが判明した。今回得られたリン酸化蛋白の中に、白血病幹細胞動態を制御する重要な分子が含まれることが考えられ、今後の白血病幹細胞病態解明に意義のある研究となった。
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