研究課題
がん細胞が基底膜を浸潤する際や大脳皮質において神経幹前駆細胞がエレベーター運動をする際には、細胞膜と核膜が連関して形態を制御する必要がある。これまでに我々は液性分子Wnt5aとその受容体であるRor2受容体チロシンキナーゼによるシグナル(Wnt5a-Ror2シグナル)が、アクチン細胞骨格再編などを介して糸状突起・葉状突起の形成を制御したり、がん細胞の浸潤突起の形成を制御することを見出した。本研究ではWnt5a-Ror2シグナルによるがん細胞膜の突起形成などの膜形態変化と核膜形態変化の連関の分子機構の解明を目的とする。これまでに、Wnt5a-Ror2シグナルによる突起形成においてRhoファミリー低分子量Gタンパク質であるRif(Rho in filopodia)の関与を明らかにしていたが、本研究によりRifの上流の活性制御因子としてRap1GDS1を、また下流のアクチン細胞骨格制御因子としてmDia2を同定することに成功した。また、免疫沈降法/質量分析法によりRif結合分子として核膜 (内幕) タンパク質であるエメリンを同定した。加えて、優性阻害性Rif変異体を培養細胞に発現させるとエメリンの核膜での発現が顕著に減弱するとともに、エメリンの細胞内局在に異常をきたすことが明らかになった。さらに、優性阻害性Rif変異体、またはGDP結合型Rifによるエメリンの発現減弱がユビキチン・プロテアソーム分解系によることを示すとともに、その候補ユビキチンリガーゼ分子の同定に成功した。これらの知見から、Wnt5a-Ror2シグナルはRifを介して細胞膜突起形成に関与するともに、Rifを介して核膜タンパク質の発現レベルを調節し、核膜形態に影響を及ぼす可能性が考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究における成果は現時点で未発表であるが、挑戦的萌芽研究として、既に細胞膜・核膜形態の制御の連関の鍵を握ると考えられる分子の同定に成功しており、また既にRifの活性測定系の確立やRif, Rap1GDS1の各種変異体の構築を完了しているため、当初計画以上に進展していると判断できる。
今後の研究の推進方策としては、Rap1GDS1とRifの構造機能連関解析を押し進めるとともに、Rifによるエメリンの分解や細胞内局在制御機構の解明を行う。また、エメリンの発現減弱・局在異常と核膜形態との関連を培養がん細胞を用いた浸潤解析実験やメカノストレス解析実験により明らかにする計画であり、これらの一連の次年度計画実験を行うための準備は整っている。
平成23年度の研究成果を踏まえて、次年度においては、浸潤解析(マトリゲルインベージョンアッセイ)、メカノストレス解析等の細胞培養系での実験やエメリンのユビキチン・プロテアソーム系での分解制御の生化学的実験が主体であるため、次年度の研究費では消耗品費に重点を置く(消耗品費 計900,000円を計上)。また、次年度までの研究成果を取り纏めて、学会発表や論文発表を行う予定であるため、国内旅費(成果発表旅費)およびその他(研究成果投稿料・掲載料)として、それぞれ50,000円、150,000円を計上する。
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