本研究では、Wnt5a-Ror2シグナルによるがん細胞膜の突起形成における膜形態変化と核膜形態変化の連関の機構を明らかにすることを目的としている。昨年度の研究により、Wnt5a-Ror2シグナルによるがん細胞の糸状突起の形成においてRap1GDS1-Rif経路が重要なこと、及びGDP結合形Rifがエメリンの発現を抑制(分解を促進)することが示された。 本年度の研究では、Ror2に加えて、Ror1もRap1GDS1-Rif経路に関わることが示された。すなわち、Ror1により増殖が制御される肺がん細胞においては、Ror1の発現抑制により肺がん細胞の増殖が阻害されるが、これらのがん細胞においては、Rap1GDS1の発現抑制ならびにRifの発現抑制によってもがん細胞の増殖が阻害されることから、Rap1GDS1-Rif経路はがん細胞での糸状突起の形成促進のみならず、細胞増殖にも関与することが明らかになった。また、Rifによる核膜タンパク質エメリンの分解制御には、Rifと会合するCUL4、DDB1、ROC1からなる核内ユビキチンリガーゼ複合体が関与することが示された。今後、がん細胞の形態と細胞増殖におけるRap1GDS1-Rif経路、Rif-エメリン経路のさらなる分子機構の実体解明と両経路の機能的連関の分子機構の詳細が解明されることが期待される。
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