研究課題/領域番号 |
23650596
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命准教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 癌 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / 遺伝学 |
研究概要 |
がんの悪性化は、多段階的な突然変異の蓄積による"遺伝的"ながん原性変化のみならず、突然変異を誘発することなく細胞間相互作用を介して引き起こされる"非遺伝的"な変化がその進行に重要な役割を果たしていると考えられる。しかしながら、このような"細胞非自律的"ながん原性変化を生体レベルでシステマティックに解析する系が存在しなかったため、その分子基盤はこれまでほとんど不明であった。本研究では、ショウジョウバエ遺伝的モザイク法を駆使した腫瘍悪性化モデルを用い、がん遺伝子Rasが様々な突然変異と協調して引き起こす上皮の細胞非自律的な腫瘍悪性化の基本原理を明らかにすることで、細胞間相互作用を介した組織レベルのがん悪性化の包括的理解に迫ることを目的とする。具体的には、まず大規模な遺伝学的スクリーニングを実施し、ショウジョウバエ複眼原基に誘導したRas誘導性の良性腫瘍クローンが細胞非自律的に周辺細胞の増殖を促進する突然変異を網羅的に単離する。さらに、それらの変異により引き起こされる細胞非自律的な増殖促進を正や負に制御する因子をモディファイヤースクリーニングにより探索し、その分子機構を解析する。平成23年度は、本遺伝学的スクリーニングを実施するともに、これまでのパイロットスクリーニングにより得られた2種類の変異系統群(ミトコンドリア機能障害あるいはmRNAスプライシング異常を起こす変異系統群)に焦点を絞り、一連の染色体欠失系統を用いたモディファイヤースクリーニングを実施して、これらの変異が引き起こす細胞非自律的増殖促進に関わる因子群の探索を行った。第3染色体右腕の約8割をカバーする249系統の染色体欠失系統をスクリーニングした結果、増殖促進の表現型のサプレッサーを14系統、エンハンサーを5系統単離することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず遺伝学的スクリーニングによりRasと協調して細胞非自律的増殖促進を起こす変異体を単離し、次にそれらの変異により引き起こされる増殖促進の表現型を正や負に制御する因子をモディファイヤースクリーニングにより同定することで、その分子機構を明らかにしていく。平成23年度は、パイロットスクリーニングにより単離された2種類の変異体についてモディファイヤースクリーニングを実施し、それぞれについてサプレッサーおよびエンハンサーを単離することに成功した。以上のように、本研究は現在までのところ当初の計画通り進んでおり、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、上記モディファイヤースクリーニングにより単離されたサプレッサーおよびエンハンサーについてそれぞれの責任遺伝子を同定する。次に、同定されたモディファイヤー遺伝子群の細胞非自律的増殖制御における役割とその分子機構を遺伝学的に解析する。一方、遺伝学的スクリーニングおよびそれにより単離された変異体のモディファイヤースクリーニングを並行して実施し、Rasシグナルが様々な突然変異と協調することで引き起こされる細胞非自律的増殖促進の分子基盤の包括的理解を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
ショウジョウバエ遺伝学的スクリーニングおよび単離された変異体群の遺伝学的解析を行うための物品費(50万円)、この作業を補佐する研究支援員の雇用費(70万円)、および研究成果発表のための旅費(10万円)を計上した。
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