研究課題/領域番号 |
23650598
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
妹尾 昌治 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (90243493)
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研究分担者 |
水谷 昭文 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (50598331)
工藤 孝幸 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (00346412)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / iPS細胞 / 微小環境 |
研究概要 |
マウスiPS 細胞を用いてがん幹細胞株樹立方法を検討している。再生医療の問題点は細胞のがん化をコントロールできない点にある。iPS細胞ががん化する様な条件を設定できれば、問題解決の糸口を掴むことができる。元来iPS細胞をヌードマウスに皮下移植して得られるのは良性腫瘍(テラトーマ)である。この腫瘍における多様性は、移植されたiPS細胞の微小環境が各iPS 細胞へ影響した結果それぞれが独自の分化の道を辿ったことを象徴している。幹細胞の万能性を考慮すれば、がん細胞を誘導する微小環境を仮想し、これに置かれたiPS細胞はがん幹細胞を経てがん細胞へ分化している可能性が高い。したがって、がん幹細胞をiPS細胞から樹立するためには、その微小環境をコントロールする事が重要と考え、また、がん幹細胞を誘導する微小環境を想定して、iPS細胞をがん由来細胞株と共培養あるいはそれらの培養上清中で培養して、未分化でかつ不死化する細胞を得ることを計画した。その結果、nanog遺伝子の発現および幹細胞の指標である内在性遺伝子c-Myc、Oct3/4、Sox2、Klf4の発現を指標に、目的に合致する細胞を得る事ができた。同時にin vivoに移植すると悪性腫瘍を形成し、腫瘍内部は未分化な部分から分化した部分まで、混在する様子を呈していた。これは、4種類の異なるがん由来細胞株を用いても同様の結果であった。また、形成された腫瘍から初代培養で得られた細胞も未分化な状態を示し、がん幹細胞様の形質を維持していた。これらの事から、がん幹細胞を継代可能な細胞株として樹立することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ルイス肺がん、B16メラノーマ、P19テラトカルシノーマ、BALB MC.E12乳腺がんの4種類の細胞株の培養上清を用いてマウスiPS細胞を培養して、未分化状態を保ちつつヌードマウスで悪性腫瘍形成能を示す細胞を獲得した。特にルイス肺がん細胞の培養上清を用いて得た細胞は血管新生に富み、ヌードマウスに形成した腫瘍から初代培養により得られた細胞は、自己複製能と分化能を備えていること、および分化した場合にIV型コラーゲン存在下において管腔形成を示すことから血管内皮細胞への分化が示唆された。このようにして得られた細胞はがん組織形成を研究する上で非常に重要な材料となると考えられた。日本分子生物学会、米国癌学会において発表し、米国科学誌PLoS ONEに掲載が決定した。この発表により、今回の成果は、世界で初めての新しい成果として高く評価された。また、新聞各紙およびテレビ報道で各方面に取り上げられた。これを機会に今後のがん研究の有力な材料となることが大きく期待されている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトiPS 細胞を用いるがん幹細胞株樹立方法の検討を前年度に引き続き、種々の細胞株を利用したがん幹細胞モデルの樹立を行う。特に、マウスiPS細胞をヒトiPS細胞に置き換え、がん由来細胞もヒト由来のものを使用する。1)グリオーマ、乳がん、大腸がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、白血病に由来する細胞株を用いて、共培養および培養上清中での培養で約1ヶ月間あるいはそれ以上継代を続けて得られる細胞の中から、内在的に発現している幹細胞マーカーc-Myc、Oct3/4、Sox2、Klf4およびnanog遺伝子を指標として単離する。2)単離された細胞は、ヌードマウスへ移植して造腫瘍性を調べ、形成される腫瘍が悪性のものを病理組織を観察しながら選抜する。免疫組織学的に腫瘍中のiPS 細胞由来の細胞およびiPS 細胞由来でかつ未分化な状態を維持している細胞を同定する。3)形成された腫瘍から細胞を単離して、再び培養系へ戻す。培養中に移植前の細胞と同様の形質を維持するもの、すなわち、c-Myc、Oct3/4、Sox2、Klf4およびnanogの内在的発現と造腫瘍性さらに分化能を持つ細胞が見出されるものをがん幹細胞モデルとする。このように、ヒト由来細胞でもがん幹細胞モデルがiPS細胞から得られれば、種を越えて一般的な方法論となるので、樹立したがん幹細胞モデルを利用して、転移能や血管新生を中心に腫瘍形成過程を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
iPS 細胞を用いるがん幹細胞株樹立方法を検討するために、マウスおよびヒトiPS細胞を用いて実験を行う。1)種々のがんに由来する細胞株を用いて、共培養および培養上清中での培養を続けて得られる細胞の中から、幹細胞の指標である遺伝子が内在的に発現しているものを単離する。2)単離された細胞は、in vivoでの造腫瘍性を調べ、形成される腫瘍が悪性のものを選抜する。免疫組織学的に解析を行い形成された腫瘍を分析し、細胞ががん幹細胞の特性を示しているかどうかを判定する。3)形成された腫瘍の初代培養により細胞を再び培養系へ戻す。培養中に移植前の細胞と同様の形質を維持するものをがん幹細胞モデルとしていく。これらの研究計画を遂行するために、研究費は主に細胞培養用器材、実験用マウスおよび抗体等の試薬を購入するために使用する。
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