研究課題/領域番号 |
23650598
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
妹尾 昌治 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (90243493)
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研究分担者 |
水谷 昭文 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (50598331)
工藤 孝幸 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (00346412)
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キーワード | がん幹細胞 / マウスiPS細胞 / ヒトiPS細胞 |
研究概要 |
iPS細胞を用いて、がん幹細胞のモデル系の確立を試みている。実際の腫瘍の中には、数パーセントのがん幹細胞が存在すると考えられ、その同定や分離が試みられている。多くのがんでがん幹細胞の存在を示す知見が蓄積する一方で、株化された「がん幹細胞モデル」は未だ存在しない。このようなモデルが細胞株として樹立できれば、がん幹細胞研究を推進する有力な材料となるばかりか、がん治療研究をより実質的に展開する事が可能になる。 そこで、iPS細胞を様々ながん細胞由来細胞株と共存させる培養条件下に置き、長時間培養を継続した後に得られる細胞中にがん幹細胞の形質を持つ細胞が存在すると仮定し、がん幹細胞のモデル作成をマウスiPS細胞を利用して試みた。マウスモデルとしてがん幹細胞の条件が満たされるような細胞に対して解析を行いその特徴をもって「がん幹細胞モデル」を提唱する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に引き続き、種々の細胞株を利用したがん幹細胞モデルの樹立を行った。特に、マウスiPS 細胞をヒトiPS 細胞に置き換えるための条件検討を開始した。まず、マウスiPS細胞由来がん幹細胞モデルを用いて、その培養条件等の検討を行った。その結果、がん幹細胞の自己複製と分化能を維持する環境には、がん幹細胞から分化した状態にある上皮系細胞が共存することが必要である事が分かった。この上皮系細胞が分泌する因子は、Notchのシグナル伝達を活性化してがん幹細胞の自己複製を促進すると同時に分化を抑制していた。この発見から、がん幹細胞はその微小環境を形成してがん幹細胞から分化していく細胞のヒエラルキーを維持していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果より、マウスiPS細胞由来がん幹細胞モデルが示す細胞のヒエラルキーから、がん幹細胞として注目されている性質に焦点を当て、次の三点について解析に取り組む。 1) がん幹細胞の特異的抗原:がん幹細胞の識別や分子標的治療の開発のために細胞表面の抗原を解析する。独自に開発している細胞表面マーカーDNA マイクロアレイと球面SOM解析ソフトを駆使して、がん幹細胞に特異的な表面マーカーを探る。 2) 転移・浸潤のメカニズム:がん幹細胞がもつ上皮間葉転移に関与する遺伝子snail/slug の発現を中心に解析する。 3) 薬剤耐性メカニズム:がん幹細胞は薬剤や放射線に対して耐性を示すと考えられている。このような耐性メカニズムに関与する遺伝子発現について解析を行い、抗がん剤スクリーニングへの指標を探る。 これらの解析により得られる特徴をもとに、がん幹細胞モデルが示す細胞のヒエラルキーの中から治療標的となり得る特定の細胞群を抽出する。さらに、がん細胞としてマウスiPS細胞ですでに実績があるマウスのグリオーマ、乳がん、大腸がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、白血病、肺がんに由来する細胞株を用い共培養および培養上清中でのヒトiPS細胞の培養を一定期間以上継代して得られる細胞をヌードマウスへ移植して造腫瘍性を調べ、悪性腫瘍を形成したものから細胞を選抜し、がん幹細胞モデル樹立の方法論を確立して、ヒトがん幹細胞モデルの樹立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、実験用マウスの購入、細胞培養器材、成果発表のための旅費等に使用する。
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