肝癌の発癌、予後などを規定する遺伝子異常に関しては未だコンセンサスを得られておらず、本研究では肝癌においてセンス/アンチセンスRNAの網羅的遺伝子解析を行い、癌の発育・進展に関連する分子の検索・同定を目的とした.対象は非HBV非HCV肝細胞癌8例、HBV肝細胞癌4例、HCV肝細胞癌16例、HBV-HCV肝細胞癌1例とし、各症例の癌部・非癌部よりRNAを抽出した.ランダムプライミング法で、我々が独自に設計したセンス/アンチセンスRNAの解析が可能なカスタムマイクロアレイ(44K)を用い、癌関連センス/アンチセンスRNAについてマイクロアレイ解析を行った.その結果、癌部と非癌部においてRNAの発現の上昇又は低下を認め、有意差(P<0.001)のある遺伝子を同定した.その内アンチセンスRNAは61遺伝子であり、これらに関してクラスター解析を行い、癌部と非癌部の明確な分類が可能であった.また、背景肝(非癌部)の検討でも発現に有意差(P<0.05)のある遺伝子を同定した.その内アンチセンスRNAは90遺伝子であり、これらに関してクラスター解析を行い、肝炎ウィルスの種類により、層別化が可能であった.さらに、C型肝炎ウィルス関連肝細胞癌のみでの検討を行った.肝細胞癌(HCV陽性)15例の癌部、6例の非癌部よりRNAを抽出し、癌部・非癌部でアンチセンスRNAの発現に相違が認められたのに加え、組織型でも発現に有意差があることが確認された。アンチセンスRNAの発現解析では癌部と非癌部の相違や、背景肝の違いを反映する特徴的な発現パターンが存在することが明らかとなり、癌関連アンチセンスRNAの発現プロファイル解析による腫瘍診断の可能性が示唆された.今後、予後関連遺伝子を同定し、新たなマーカー候補につながることが期待される.
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