研究課題/領域番号 |
23650617
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
岩尾 洋 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00137192)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 腫瘍マーカー |
研究概要 |
多発性骨髄腫は治癒を期待できる治療法がなく、治療の目標は患者の生活の質(QOL)を維持した長期生存となる。よって治療介入時期を決定する上でも的確なバイオマーカーが必要とされている。そこでHsp72 が骨髄腫特異的に発現するタンパク質と相互作用しているという着想に基づき、Hsp72 を標的とするアフィニティー精製を利用した疾患プロテオミクスによる腫瘍マーカーの探索を行った。初年度は抗 Hsp72 抗体を用いて多発性骨髄腫患者血清中のHsp72 複合体をアフィニティー精製し、腫瘍マーカー候補分子となるHsp72 結合分子を同定することを目的とした。まずHsp72 アフィニティービーズを用いた血清の精製を行うためのアフィニティー精製の至適条件の検討を行い、血清からの微量タンパク質抽出精製法を確立した。健常人、患者で血中HSP72量に大きな変化は認めなかった。また同定分子をGO termのcell componentに基づいて分類したところ、同定分子の45%ほどが細胞内タンパク質であった。よって本系を用いて健常人2名、患者4名の血清を用いてマーカー候補タンパク質の探索を試みた。同定タンパク質をGene Ontologyを用いて生物学的プロセスに基づいて分類した結果、患者血清中には健常人では見られないタンパク質分解系分子、アポトーシス関連分子、リン酸化酵素、翻訳関連分子というカテゴリーに分類される分子がみられた。さらに細胞周期、シグナル伝達関連分子に分類される分子群が患者血清中で増加していることがわかった。同定分子の大半はこれまでに血液中での存在が報告されていないものであり、本法の有効性を示している。さらに健常人にはなく、患者4例中3例で共通して同定される分子を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験系を確立、至適化し、血中微量タンパク質の同定法として特許申請した点と、本系を用いて候補分子を抽出できたため。
|
今後の研究の推進方策 |
さらに患者の母数を増やしつつ、質量分析の感度を上げることで候補分子を増やすとともに、患者間で共通して同定される分子については定量用質量分析を用いたMRM解析を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
再度、高感度の質量分析計を用いて複数患者血清中のHsp72結合分子を探索する。予算の一部は質量分析の委託解析費用として使用する。同定タンパク質に対する共免疫沈降を行い、同定タンパク質とHsp72の結合を確認する。多発性骨髄腫細胞株(U266, KMS-12-PE, RPMI8226)で発現するタンパク質およびサイトカイン刺激によって培養上清中に放出されるHsp72結合分子を同様にNHqにてアフィニティー精製しショットガン分析法にて同定する。これらのデータを血清中に見出されたHsp72 結合分子と比較することで腫瘍マーカー候補分子を絞り込む。腫瘍マーカー候補分子として同定されたHsp72 結合タンパク質が腫瘍マーカーとして臨床的に有用であるか否かを多数症例の患者検体を比較することにより検証する。同定された腫瘍マーカー候補タンパク質が多発性骨髄腫患者血清に高確率に発現していることをさらに多くの患者血清で検証するために、ELISA法にてより多数例の患者血清を解析する。より多数例の多発性骨髄腫患者血清、他疾患の患者血清および健常人血清でのマーカー候補タンパク質の発現量を定量する。この際、マーカー候補タンパク質の発現量と個々の多発性骨髄腫患者の臨床的背景を照らし合わせることにより、骨髄腫のタイプや病期とマーカー候補タンパク質の発現量の相関を検討し、マーカー候補タンパク質の腫瘍マーカーとしての妥当性を検証する。予算はこの際のELISAや分子生物学実験試薬に充てる。
|