研究課題/領域番号 |
23650619
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
石川 智久 独立行政法人理化学研究所, LSA要素技術開発ユニット, 上級研究員 (60193281)
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研究分担者 |
黒岩 敏彦 大阪医科大学, 医学部, 教授 (30178115)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光線力学診断法 / 脳腫瘍 / ポルフィリン / 代謝 / トランスポーター / 転写制御 / バイオマーカー / 臨床応用 |
研究概要 |
わが国において癌は死亡原因の第1位である。患者の生活の質(QOL)を高く保つために安全な治療方法の開発は焦眉の急である。癌の中でも脳腫瘍の治療は極めて難しい。その最も大きな理由は、腫瘍が正常脳の中に浸潤した部分を広く切除できないことである。癌治療の中で5-アミノレブリン酸(ALA)を用いた光線力学診断法は臨床応用および基礎研究において極めて斬新であり、悪性脳腫瘍の外科的治療への応用は患者のQOLを低下させない方法として注目されている。「なぜ悪性腫瘍では、周りの正常細胞に比較してポルフィリンが蓄積しやすいのか?」いう究極の命題を解決するために我々は、悪性脳腫瘍に対する光線力学診断法に研究の焦点を絞り、研究倫理委員会の承認を得て大阪医科大学脳神経外科・黒岩敏彦教授(研究分担者)および東京工業大学大学院生命理工学研究科・小倉俊一郎・特任准教授(研究協力者)と研究を実施した。大阪医科大学・脳神経外科で脳腫瘍手術を受けた患者(インフォームドコンセント有)から摘出されたと脳腫瘍とその周囲の正常組織におけるポルフィリン代謝と輸送の違いに注目して、トランスクリプトーム解析とメタボロームの解析を行なった。その結果、悪性脳腫瘍でポルフィリン蛍光の強い組織では、主としてプロトポルフィリンIXが蓄積しており、その分子機構の1つとしてコプロポルフィリノーゲン酸化酵素の発現レベルが高くなっていることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究目標は、脳腫瘍の悪性度とポルフィリン蓄積の関係を明確にし、分子メカニズムを探索する事であり、その目標をほぼ達成した。その研究を実施するにあたって、大阪医科大学および理化学研究所の研究倫理委員会の承認を得て、インフォームドコンセントを頂いた悪性脳腫瘍の患者から外科手術によって摘出された悪性脳腫瘍検体を保管し研究試料とした。合計20の悪性脳腫瘍検体を用いて、ポルフィリン生合成とヘム代謝に関与する14遺伝子の発現レベルを定量的PCR法と組織免疫染色法で測定した。脳腫瘍周囲にある正常組織(蛍光レベルが低い組織)に比べ発現レベルに異常が認められる遺伝子を探索し、ポルフィリンの腫瘍集積の分子機構を解明した。また、外科的に切除した悪性脳腫瘍の一部を液体窒素で迅速に凍結し、HPLCによって分析しポルフィリンの分子種とその量を定量的に測定した。その結果、悪性脳腫瘍でポルフィリン蛍光の強い組織では、コプロポルフィリノーゲン酸化酵素(CPOX)の発現レベルが高くなり、主としてプロトポルフィリンIXが蓄積していることが明らかになった。一方コプロポルフィリン、ウロポルフィリンのレベルは極めて低かった。さらに、CPOX遺伝子の発現上昇がプロトポルフィリンIXの蓄積に関係しているが、それ以外にもALA取り込みに関与するトランスポーターPEPTおよびプロトポルフィリンIXの排出に関与するABCG2も重要な役割を果たしていることが示唆された。それらの研究成果を論文発表した(Takahashi K, et al. Neuro-Oncology, 13(11):1234-1243, 2011)。
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今後の研究の推進方策 |
なぜ悪性腫瘍では、周りの正常細胞に比較してポルフィリンが蓄積しやすいのか?という究極の命題を解決するために、上記で同定された遺伝子の転写制御を解明する。これまで理化学研究所オミックス基盤研究領域ではCAGE法により網羅的トランスクリプトーム解析を行ない、転写因子のネットワークを解明してきた。その解析データベース(FANTOM5)に基づいて悪性脳腫瘍でポルフィリン蓄積を引き起こす遺伝子の転写制御を解析する。その結果、悪性脳腫瘍(glioma)において悪性度(grade)が高くなるにつれて特異的に活性化される転写因子を見つけることが可能であると考えられる。さらに、悪性脳腫瘍の悪性度と関係する遺伝子のmRNAレベルまたは遺伝的変異が同定されたならば、術中診断ができるように迅速検出方法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、ポルフィリン合成酵素のみならずトランスポーターも視野に入れた包括的な代謝経路を研究対象とすることで、ポルフィリンが癌細胞に蓄積しやすい分子メカニズムの解明を目指す。in vitroの系において、培養細胞にポルフィリン前駆物質であるALAを取り込ませ、ALAの代謝産物として得られるポルフィリンをHPLCで定量的に解析する。さらに、脳腫瘍組織でポルフィリン蓄積に関係することを確認した遺伝子(複数候補)について、in vitroの系で過剰発現株を構築し細胞におけるポルフィリン蓄積に与える影響を検証する。同定した遺伝子の発現をRNAi法により抑制させた条件下で、細胞におけるポルフィリンの蓄積レベルを測定し、同定した遺伝子の関与を検証する。上述の研究を実施するにあたって、細胞培養液、試薬、プラスティック器具などの消耗品のほか、論文の英語校正および論文投稿、日本癌学会など国内学会での研究成果発表に研究費を使用する計画である。次年度はポルフィリン合成酵素のみならずトランスポーターも視野に入れた包括的な研究を実施する事を計画しており、その研究に必要な費用の増加が予測された。そのために本年度は、研究を効率的に実施することにより当初の計画額よりも209,037円節約した。それを有効に活用する事により、脳腫瘍の悪性度とポルフィリン蓄積レベルおよび遺伝子発現レベルとの相関関係とその分子機構を、本年度より数多くの臨床検体を用いて詳細に解明していく計画である。
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