研究課題/領域番号 |
23650619
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
石川 智久 独立行政法人理化学研究所, LSA要素技術開発ユニット, 上級研究員 (60193281)
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研究分担者 |
黒岩 敏彦 大阪医科大学, 医学部, 教授 (30178115)
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キーワード | 脳腫瘍 / 光線力学診断 / トランスポーター / ポルフィリン / アミノレブリン酸 / メタボローム解析 / 遺伝子発現 / 代謝 |
研究概要 |
脳腫瘍の外科手術において術中に正常細胞と癌細胞を区別し、癌病巣部分を確実に切除することは、患者の生活の質(QOL)を改善する上で極めて重要である。近年5-アミノレブリン酸(ALA)を用いた光線力学診断法は癌治療への臨床応用および基礎研究において極めて斬新であり、悪性脳腫瘍の外科的治療への応用は患者のQOLを低下させない方法として注目されている。しかし一方、ALAを投与することによって、脳腫瘍にポルフィリンが選択的に蓄積する分子機構については十分に解明されていない。 H24年度我々は、正常脳と脳腫瘍とを区別するバイオマーカーを探索するため、研究倫理委員会の承認を得て大阪医科大学脳神経外科・黒岩敏彦教授(研究分担者)および東京工業大学大学院生命理工学研究科・小倉俊一郎・特任准教授(研究協力者)と研究を実施した。前年度に解析したコプロポルフィリノーゲン酸化酵素(CPOX)の発現レベル以外にもALA取り込みに関与するトランスポーターPEPTおよびプロトポルフィリンIXの排出に関与するABCG2も重要な役割を果たしていることが示唆された。そこで、in vitroの系において、培養した癌細胞にポルフィリン前駆物質であるALAを取り込ませ、ALAの代謝産物として得られるポルフィリンをHPLCで定量的に解析した。さらに、PEPT, ABCG2遺伝子について、in vitroの系で過剰発現株を構築し細胞におけるポルフィリン蓄積に与える影響を検証した。同定した遺伝子の発現をRNAi法により抑制させた条件下で、細胞におけるポルフィリンの蓄積レベルを測定し、同定した遺伝子の関与を検証した。その結果、プロトポルフィリンIX 蓄積の高い癌細胞では、PEPT遺伝子の発現が高く ABCG2遺伝子の発現が低くなっている事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究目標は、悪性脳腫瘍にプロトポルフィリンIXが蓄積する分子メカニズムを解明し、正常脳と脳腫瘍とを区別するバイオマーカーを探索する事であり、その目標をほぼ達成した。我々の研究によって、コプロポルフィリノーゲン酸化酵素(CPOX)、およびALA取り込みに関与するトランスポーターPEPT、プロトポルフィリンIXの排出に関与するABCトランスポーターABCGが重要なファクターであり、これらの発現レベルが正常脳と脳腫瘍とを区別するバイオマーカーとなりうる事を証明した。ALA投与による光線力学診断法では、ALAの細胞内への取り込みに始まり、ポルフィリン生合成経路と排出輸送のバランスが重要である。脳腫瘍では、そのバランスが正常細胞と異なり、ポルフィリンが腫瘍細胞に蓄積しやすくなっているものと考えられた。その違いを決めるファクターこそが光線力学診断法の有効性を予測する上で重要なバイオマーカーとなると考えられ、転写因子Nrf2が、光線力学診断法におけるABCG2遺伝子の発現誘導を予測する重要なバイオマーカーであると考えられた。平成24年度において我々は、転写因子Nrf2によるABCG2遺伝子の発現誘導のメカニズムも解明し、且つABCG2のPpIX排出機能を阻害する方法を見出した。その方法はALA光線力学治療に応用できると考えられる事から、米国でまず優先特許出願を行ない、その後国内の特許出願を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
なぜ悪性腫瘍では、周りの正常細胞に比較してポルフィリンが蓄積しやすいのか?という究極の命題を解決するために、CPOX, PEPT, ABCG2遺伝子の転写制御を解明する。これまで理化学研究所オミックス基盤研究領域ではCAGE法により網羅的トランスクリプトーム解析を行ない、転写因子のネットワークを解明してきた。その解析データベース(FANTOM5)に基づいて悪性脳腫瘍でポルフィリン蓄積を引き起こす遺伝子の転写制御を解析する。その結果、悪性脳腫瘍(glioma)において悪性度(grade)が高くなるにつれて特異的に活性化される転写因子を見つけることが可能であると考えられる。 さらに、H24年度の研究においてABCG2のプロトポルフィリンIX排出機能を阻害する方法を見出したことにより(特許出願済み)、ALA光線力学治療に応用するため、動物実験も今後実施していく必要があると考えられる
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、ポルフィリン合成酵素のみならずトランスポーターも視野に入れた包括的な代謝経路を研究対象とすることで、ポルフィリンが癌細胞に蓄積しやすい分子メカニズムの解明を目指す。悪性脳腫瘍(glioma)において悪性度(grade)が高くなるにつれて特異的に活性化される遺伝子とその転写因子を見つける。悪性脳腫瘍の悪性度と関係する遺伝子のmRNAレベルを同定して、等温核酸増幅法に基づく迅速検出方法を開発する。上述の研究を実施するにあたって、細胞培養液、試薬、プラスティック器具などの消耗品のほか、論文の英語校正および論文投稿、日本癌学会など国内学会での研究成果発表に研究費を使用する計画である。
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