研究課題/領域番号 |
23650620
|
研究機関 | (財)東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
遠藤 典子 (岩田 典子) (財)東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (80546630)
|
研究分担者 |
芝崎 太 (財)東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 副参事研究員 (90300954)
櫻井 陽 (財)東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (40546628)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 子宮頸癌予防ワクチン / 中和抗体価 |
研究概要 |
実用化に向けた、子宮頸癌予防ワクチンの効果測定法を開発している。子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で発症するが、感染予防に効果的な抗体価の指標は設けられておらず、測定法も確立していない。そこで本研究では、ワクチンにより誘導される血清中の中和抗体価の検出が可能な系の構築を目的とした。研究は1)抗体および抗原の作製、2)簡便で迅速、かつ多項目測定可能な系の確立、3)ヒト検体を用いた検証、4)企業との連携による技術開発、の順に進める事とし、初年度は1)と2)の達成を目指した。 1)抗体および抗原の作製:マウスモノクローナルIgG抗体は、ハイブリドーマ培養上清と腹水の2方向から作製中である。培養上清は抗体価の高い2クローンを馴化し無血清化まで進めたが、IgMであることが判明したため再免疫中である。腹水は既に採取済みで、今後精製の予定である。他にポリクローナル抗体作製のため、ウサギ抗血清の採取を終えた。抗原は、現在市販のワクチン抗体価測定用としてHPV16/18L1タンパク質を得た。開発中のワクチン用には、日本人に多い高リスク型HPVとして31,33,51,52,58L1タンパク質の産生を、バキュロウイルス発現系により試みている。進捗は、HPV51:大量発現に成功し精製の準備中、HPV33/52:大量発現の条件検討中、HPV58:昆虫細胞へのトランスフェクション実施中、HPV31:プラスミド構築中、という状況である。 2)簡便で迅速、かつ多項目測定可能な系の確立:独自の測定法確立を目指していたが、バックグラウンドの低減に難航した。しかし現在までに、今後の開発の基盤となるELISA法およびイムノクロマト法は確立している。 3)ヒト検体を用いた検証・4)企業との連携による技術開発:次年度に実施予定だが、これらの準備として倫理委員会および共同研究契約手続き等を終えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存の測定法を改良しi)簡便な操作で、ii)30分以内に、iii)2~4種類のHPV型を同時に、iv)高い特異性と感度で、v)低侵襲的に得られる検体で、血清中の中和抗体価測定が可能な系の開発を主たる目的としている。このため初年度は、測定に必要な抗体および抗原の作製、ならびに基盤となる測定系の確立を中心に研究を進めた。 各段階において様々な条件検討を重ね、測定の基盤技術開発に取り組んだ。その結果、特別な技能を必要としないELISA法およびイムノクロマト法により、HPV16型L1とHPV18型L1をそれぞれ特異的に、低侵襲的に得られる血液検体(血清)で測定する方法を確立した。故にi)、iv)およびv)の目標は達成できている。但し、今後実用化する上で必要となるコントロール用の抗体作製、また予備的に進行中の抗原作製には若干の遅れが生じた。これら抗体・抗原は、期間内の獲得に向け現在も作製中である。 当該研究室独自の方法による測定系の確立、即ちii)およびiii)は、初年度中には実現できていない。今後、協力先病院より提供されるヒト血清を用い、既に確立したELISA法およびイムノクロマト法の評価を行う予定だが、これと並行して新規の測定法開発も進める必要がある。一方、次年度に予定していた「企業との連携による技術開発」については準備も整い、一部は既にスタートしている。 以上、これまでの目標は概ね達成できており、今後も計画年度内の完成に向け研究を遂行する。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究は概ね順調に進行しているため、特に大きな変更はぜず、交付申請書に記載した研究計画に沿って推進して行く予定である。初年度に計画し、完了しなかった抗体および抗原作製に関しては、今後も継続して行う。但し初年度が終了した時点で未完成の抗体・抗原は、本研究では予備的な位置付けのもののみである。次年度の研究でメインとなるのは1)ヒト検体を用いた検証、2)企業との連携による技術開発、である。 1)については既に数か所の病院と共同研究契約を締結し、ヒト検体を扱う上での倫理委員会の承認も得ており、準備が整っている。この他、検体提供者用に説明文書ならびに同意書等を作成し、共同研究先機関の臨床医には研究内容の説明を十分に行った。また個人情報が漏洩しないための厳密な管理体制も敷いた。今後検体を入手次第、初年度に確立した測定系の性能試験を進める。ここで実検体を用いてプロトコールを再検討し、企業に技術を導出するまでの最終確認を行う。またこれと同時に、当初の目標であった独自性のある測定系の開発も進める。 2)については既に企業との折衝を始めた。第一世代のイムノクロマトは試作品が完成しており、企業側からのフィードバックも来ているという状況にある。今後は実際のヒト検体を用いた検討で改良を重ね、数十例規模のデータが収集できたところで企業に技術を導出する予定となっている。 以上に加え、研究の最終段階では、得られた成果を学会で発表、また論文にもまとめる予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、大幅な計画変更をせず研究を遂行する。大型機器類、実験動物施設、臨床検体取り扱い設備等は既に研究所に整っており、購入申請の予定はない。申請者所属の研究所と臨床側、企業側間のトランスレーショナル・リサーチについては、東京都のプロジェクト基金により行うため、本研究費からの支出はない。交付決定された本研究費は、申請者および研究分担者が使用予定の試薬・消耗品費、研究成果発表に掛かる費用等に充てられる。 今後、ヒト検体を用いた条件検討、および新規測定法の検討が重要となってくることから、消耗品費は予算の7割程度になると見込んでいる。この他の経費として、研究成果をまとめ、発表するための学会参加費用、論文投稿費用を予定している。
|