研究概要 |
本研究は,抗がん剤の抗腫瘍効果を細胞レベルでリアルタイムに評価する方法を確立することを目的とする. 抗腫瘍効果を細胞内器官である微小管の動態を指標にして行うため,今年度までにGFPを融合した微小管結合蛋白質EB1を恒常的に発現するヒト乳癌細胞を作製した。EB1は微小管伸長端に数十分子がコメット状に集積する性質を持つため,EB1集積部のGFPの蛍光重心位置の移動速度を微小管伸長速度とみなし、微小管活性を計測することができる。培養細胞における薬剤非投与下の条件では、微小管伸長速度は330nm/sと計測された。微小管脱重合阻害剤であるパクリタキセルを細胞に投与すると,その投与濃度によって細胞に多様な変化が観察された。パクリタキセル10nM条件下では、微小管伸長速度は150nm/sまで減少した。以上の結果から、パクリタキセルの微小管脱重合阻害活性の波及効果として微小管伸長活性が阻害されること、またEB1の動態解析はパクリタキセルの阻害効果を細胞個々のレベルでリアルタイム評価するのに適した方法であることが示唆された。 今年度は,EB1による評価系をin vivoに応用するために、担がんマウスの心肺運動によるブレを極限まで抑えこむことを可能とする独自に作製したマウス固定装置を用いて,担がんマウスの腫瘍観察を行った.また同時に,この実験系の妥当性を作用機序の異なる抗がん剤でも検討するために,パクリタキセルのほかビノレルビン,エリブリン,シスプラチン,エピルビシン,エンドキサン,5-FU,イリノテカンにおけるIC30, IC50, IC70を計測し,各濃度におけるEB1の動態解析を行った.その結果,種々の抗がん剤においても薬物濃度依存的に動態変化を捉えることが可能であった.この方法により,多様な抗がん剤においても抗腫瘍効果を細胞個々のレベルで評価することができると考えられた.
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