前年度と同様の in vivo 実験を癌細胞の種類を変えて繰り返した。CG-1細胞と同様に、コクサキー・アデノウイルス受容体(CAR)の発現が乏しい未分化甲状腺癌細胞株SW579細胞と、CARが中等度発現しているチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞株CHO細胞をbalb-c nu/nu マウスに皮下移植し担癌マウスを作製した。これに抗腫瘍効果を持つ組換えアデノウイルスをカーボンナノチューブ(CNT)で処理して腫瘍内投与し抗腫瘍効果を観察した。その結果CG-1細胞を用いた場合と同様に、CNT前処理組換えアデノウイルス群が前処理しない群と比較して強い抗腫瘍効果を示した。しかしながら、これらの細胞のマウスへの生着率が低く、有意差を示すまでのまとまった感染実験が遂行できなかった。 研究期間全体を通じてまとめると次の通りである。培養細胞に感染する実験で、組換えアデノウイルスをカーボンで前処理すると遺伝子導入効率が飛躍的に上昇すること、カーボンの中でCarbere-SというCNTが最も効率を上げることが判明した。CNT処理したアデノウイルスを用いると遺伝子導入時間が短縮されること、さらに界面活性剤で処理するとCNTによる増強効果が消失することから、アデノウイルスとCNTが複合体を形成することによって遺伝子導入効率が増強され、それがCARを介する経路とは異なる系を介するものと推察された。 このCNTによる遺伝子導入増強効果は浮遊細胞でも確かめられ、さらに、腫瘍組織への直接投与という in vivo 実験でも同様の増強効果が実証された。これらの結果から、CNT-組換えアデノウイルスを用いた遺伝子導入方法が、将来的に様々な分野で応用され得る可能性が示唆された。 以上から電子顕微鏡によるアデノウイルスとCNTの複合体を直接観察することはかなわなかったが、当初の目標は概ね達成できたものと考える。
|