研究課題
個人ゲノム情報に基づく癌の分子病態研究の急速な展開、例えば一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)を用いた各種癌の多数の患者DNAのゲノムワイド関連解析により、これまでの手法では同定されなかった癌関連遺伝子の構造的多様性を介した癌の遺伝素因が明らかになると期待されるが、一方で、その機能検証に必要となる遺伝子のゲノム構造異常等を迅速かつ正確にヒト体細胞を用いた実験系で再現できる手法は存在しない。そこで本研究は、(1)複数の遺伝子異常の同時解析に利用可能な正常細胞における遺伝子組み換え技術を開発して、ゲノム構造異常や遺伝子多型(遺伝素因)に起因する癌発生機構の解明を行うこと、そして(2)この技術を応用して、新規癌関連遺伝子を標的とした癌予防に向けた創薬開発手法を確立することを目的としており、その第1段階の解析として、前年度に解析基盤(技術・試料)の確立を行うため、複数の細胞株やヒトの肺由来の正常細胞(気道上皮)における肺癌関連遺伝子(TERT, TP63)の遺伝子多型を確認した上で、遺伝子導入条件を検討した。あわせて遺伝子導入に影響を与えるgeneticbackgroundの検証を行うため、細胞ストレス下での肺癌関連蛋白・遺伝子やDNA修復に関わる蛋白・遺伝子の発現を検討し、複数の遺伝子導入株候補を選定した。当該年度は、第2段階として、ゲノムワイド関連解析(GWAS)で同定した肺癌関連遺伝子等のリスク多型をもたない複数の細胞株に当該遺伝子を導入した細胞を作製して、癌の遺伝素因に起因する発癌病態の解明と癌予防に向けた創薬モデル構築の基盤を確立した。
2: おおむね順調に進展している
肺癌関連遺伝子等のリスク多型をもたない細胞株に当該遺伝子を導入した系が構築され表現型解析の基盤ができたため。
平成24年度に得られた結果を基にして、第3段階として、癌の遺伝素因に起因する発癌病態の解明と癌予防に向けた創薬モデルの構築を行う。作製した肺癌関連遺伝子等の導入細胞を用いて細胞の形態、生理、生化学的表現型について野生型細胞と比較しながら解析し、リスク多型をノックインした場合の細胞レベルでの変化を観察する。さらに細胞ストレス条件下でのリスクアレル機能の解析を各種の分子生物学的手法を用いて検討し、これらの知見から肺癌関連遺伝子等のリスクアレルに起因する発癌分子経路を標的とした創薬スクリーニング系を検討する。
次年度の研究費は、本研究計画の第3段階で必要となる遺伝子導入試薬、細胞培養試薬、遺伝子発現検出試薬、シークエンス試薬等およびそれに関連する消耗品費として使用する。
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