研究概要 |
がんの治療を困難にしている原因の一つにがんの浸潤・転移がある。本研究計画では,標的組織における腫瘍細胞の接着阻害をその作用機序とする新規のがん転移抑制剤の開発に有用なin vitroがん転移モデルの構築を試みた。本モデル系では標的組織の微小環境再現のために,内壁を細胞外マトリクスや血管内皮細胞で被覆できる微小管に血流を模した培養液と腫瘍細胞を還流させ,経時的観察のできる画象解析装置を組合せることで腫瘍細胞の内壁への接着をそれぞれの相互作用の指標にできるなど,ウェルプレートを用いたバッチ法にはない特徴をもつ。今回,腫瘍細胞としてヒト肺癌樹立細胞株であるHLC-1を,細胞外マトリクスとしてcollagen IVを用いた。また,がん転移への関与が報告されているCEACAM6について検討するために,RNA干渉によりCEACAM6の発現を抑制した細胞株を作製した。発現抑制は,抗CEACAM6抗体を用いたフローサイトメトリーとウェスタンブロットにてそれぞれ確認した。比較のために行ったバッチ法では,同じ遺伝子ファミリーの抗CEA抗体では認められなかったanoikisの促進が抗CEACAM6抗体で認められた。そこで,今回作製したin vitroがん転移モデル系を用いてCEACAM6の発現を抑制したHLC-1で細胞外マトリクスcollagen IVとの相互作用/接着について検討したところ,CEACAM6抑制細胞で内壁へ接着する細胞数減少した。両者を比較すると,流れを持たせることで微小環境をより良く再現するという点に加え,必要時間の短縮や相互作用確認の容易さ,組合せの自由度などバッチ法に比べ今回作製したin vitroがん転移モデル実験系の優位性が示されたといえ,新規がん転移抑制剤の開発に有用なツールになることが示唆された。
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