以前我々は,ヒト大腸がんモデルマウスとして使用されているApcMin/+マウスにおいて、腸管に発生するポリープ数がパイエル板数と逆相関していることを明らかにした。パイエル板は、食べ物と一緒に体内に侵入してきた細菌などから体を守る役割を担っており、腸管免疫の中心的な役割を果たしていることが良く知られている。ところが、パイエル板と腸管腫瘍の関係についての知見はあまり多くない。そこで、本研究において、腸管内のパイエル板数を人為的に増加させることで腸管腫瘍数を抑制することが可能かどうか検討した。23年度は、パイエル板数を人為的に増加させるための条件設定を、トウモロコシ外皮から抽出したアラビノキシランを用いて検討を行い、有意にパイエル板数を増加させる濃度を明らかにした。24年度は、23年度に決定したアラビノキシランの濃度をApcMin/+マウスに摂食させ、腸管ポリープ数を計測した。すると、腸管ポリープ数は有意に減少していることがわかった。この効果は、パイエル板数が増えたことによるものなのか、アラビノキシランによる効果なのかを明らかにするために、パイエル板欠損マウスとApcMin/+マウスを掛け合わせ、パイエル板が欠損したApcMin/+マウスの作製にとりかかった。25年度は、作製したパイエル板欠損ApcMin/+マウスの個体数を確保し、アラビノキシランを摂食させる同様の実験を行った。すると、パイエル板欠損ApcMin/+マウス12匹において、腸管ポリープ数の減少は確認することができなかった。このことから、アラビノキシランのみではポリープ数減少効果は見られず、パイエル板数を増加させたことが腸管ポリープ数の有意な減少につながったと推測できる。本研究期間において、パイエル板数を増加させることががん予防につながる可能性を示唆することができた。
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