本研究では、海氷によって移送される可能性が高く植物プランクトン増殖へのインパクトの大きい微量栄養物質である「鉄」と陸起源の鉱物などの指標となる「アルミ」に着目した海氷内の微量金属元素の無汚染分析方法を開発することを目的としている。H24年度は、計画されている①表面研磨による海氷サンプルクリーニング装置、②クリーン海氷融解インライン分析装置、の2つの装置の開発のうち、①の装置について研究を進めた。 大きな海氷ブロックから採取した際、微量金属分析用の試料とするために、ノコギリやアイスピック、コアラーを用いて試料切り出す必要性があり、その際にサンプル表面は鉄やアルミニウム濃度の汚染を受けることが確認された。この汚染した表面をクリーンに除去する為に、セラミック刃を用いた表面研磨による氷のクリーニング操作を検討した。低温室に設置したクリーンブース内で、厳密に酸洗浄したセラミックナイフを用いて氷表面を2 mm-5 mmずつ削り、順次クリーンに洗浄したポリエチレン容器にサンプルを集め、融解し酸性溶液にした後、鉄とアルミニウムの濃度を原子吸光分析法によって測定した。試料の採取や前処理の段階で汚染があった場合に、周囲を1センチ以上削ることでその影響を除くことが可能であることが明らかとなった。 上記のクリーニング方法を用いて、南部オホーツク海域における海氷のサンプルを測定したところ、海氷内の全濃度は685±203 nM (n = 53)であり、北極海やベーリング海、バルト海の縁辺海で形成された海氷の全鉄濃度に近い値を示した。また、同時に得られたアルミニウム濃度と鉄の比は、陸起源の鉱物粒子の値に近かったことから、海氷には陸起源鉱物粒子が取り込まれている可能性が示唆された。
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