海水中の蛍光性溶存有機物に由来する蛍光強度は見かけの酸素消費量と同様な海洋学パラメーターと成りうる事が示唆されている。蛍光性溶存有機物はin situ蛍光光度計の導入により、その分布を高解像度で評価できる可能性があり、蛍光性溶存有機物を新海洋学パラメーターとして確立する意義は大きい。しかし、蛍光性溶存有機物の時・空間分布に関する観測事例が少ない事が問題点としてあげられる。そこで、本研究では蛍光性溶存有機物の詳細な時・空間分布を明らかにする事により、 そのin situ蛍光光度計を用いた高解像度分析の可能性を評価し、また新海洋学パラメーターとしての確立を試みた。 外洋域において蛍光性溶存有機物の蛍光スペクトルを評価した研究例は少なく、蛍光スペクトルの時・空間的な異同に関してはよく分かっていない。in situ蛍光光度計では、固定された励起波長及び蛍光波長が使用されるため、蛍光スペクトルが海域・水深によって変化しない事がin situ蛍光光度計の導入に極めて重要である。 本研究では、初年度に、蛍光性溶存有機物存在量の大きく異なる西部北太平洋亜寒帯および亜熱帯海域の表層から深層における溶存有機物試料を採取し、3次元励起蛍光スペクトルを測定した。その結果、蛍光性溶存有機物の蛍光スペクトルは1000m以浅において深度に伴い変化するが、本研究で導入したin situ蛍光光度計が対象とする波長域においては、その変化は問題とならない事が明らかとなった。そこで、2年度目は、北太平洋の南北および東西断面観測を行った研究航海に参加し、世界で初めて、in situ蛍光光度計を用いた蛍光性溶存有機物の高解像度分布を明らかにした。今後、これら高解像度分布の解析を進める事により、蛍光性溶存有機物を新海洋学パラメーターとして提案できる事が期待される。
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