研究課題/領域番号 |
23651006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山室 真澄 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (80344208)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 南極 / 湖沼 / 貧栄養 / 生物生産 / 安定同位体比 / 窒素 / コケ類 / 藍藻類 |
研究概要 |
南極の湖沼生態系は、同一の気候条件のもと、湖ごとにそれぞれ独立したシステムが成り立っている。近接した湖沼であるにも関わらず、その多くは河川や集水域によってつながったものがほとんどなく、全く違った湖沼植生の形態・構造となっている点が、他の大陸の湖沼にない特徴である。南極では一般に栄養塩供給源が乏しく、水鳥の影響がないところでは極端に貧栄養化している。そのため湖沼生態系の多様性に影響する要因として、まず、外部からの栄養塩供給の有無がある。次に、貧栄養環境では窒素を確保するために窒素固定が卓越するようになると考えられるが、それがラン藻によるのか別の生物なのか、両者を分けるのは水深などの湖盆形態なのか窒素:リン比などの化学的要因なのかが、多様性の形成・決定機構の解明において重要である。今年度は南極探検第51次隊で予備的に採取した各湖沼の柱状堆積物試料について試験的に数cm毎に切断して炭素・窒素濃度とその安定同位体比を分析し、その値のプロファイルからコケなどの大型植物を含む柱状試料の適切な採取方法と切断方法を検討した。また炭素・窒素濃度とその安定同位体比から、水鳥の影響が卓越している湖沼、窒素固定が卓越している湖沼、同程度の栄養塩濃度であるにも関わらず一次生産が盛んな湖沼とそうでない湖沼など、いくつかのタイプに類型化することができた。これをもとに2011年11月~3月に行った現地調査では、各タイプから典型的な湖沼を選定し、湖内で数点の柱状試料の採取や、流域での栄養塩供給源となり得る物質(土壌、生物遺骸、植物、雪氷など)を採取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
南極探検第51次隊で予備的に採取した各湖沼の柱状堆積物試料について試験的に数cm毎に切断して炭素・窒素濃度とその安定同位体比を分析し、その値のプロファイルからコケなどの大型植物を含む柱状試料の適切な採取方法と切断方法を検討する予定であったが、分析に使用する予定だった質量分析計が設置されている(独)産業技術総合研究所第7事業所が東日本大震災の影響で実験室の下水が使用できなくなり、2011年7月まで実験できなかった。その後、秤量に使用する電子天秤が設置されている部屋が引っ越し対象となり、8月から10月まで使用できなかった。11月から3月までは分析を担当する堀が53次隊に同行して南極に出張した為、表層については全湖沼について分析を行ったが、鉛直方向については予定していた数を分析できなかった。このため、データ解析もまだできていない。コアラーの改造と現地調査は予定通り達成した。
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今後の研究の推進方策 |
53次隊に同行して得られた柱状堆積物試料やその他のサンプルについて炭素・窒素・リン濃度と炭素・窒素安定同位体比、ICP-MSによる主要元素分析を行う。安定同位体比は研究代表者が併任している(独)産業技術総合研究所の質量分析計を用いて行う。また安定同位体比については今年度分析できなかった、51次隊が採取した柱状堆積物試料の分析も行う。これらの分析結果を整理し、外部からの栄養塩供給の有無、一次生産者の分類群と構成比、湖盆形態、湖水の窒素:リン比、湖沼形成年代などとの関係を検討する。外部からの栄養塩供給の有無や湖水の窒素:リン比は、53次隊で同時に得られたデータを参照する。以上の結果に基づき、南極露岩域の湖沼において、貧栄養でありながら高い生産性と多様性を維持している機構を整理する。さらに、サンゴ礁について申請者らが整理した結果やバイカル湖の既往文献と比較検討し、貧栄養水域に共通した生態系維持機構について仮説を提示し、投稿論文にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は不可抗力により、予定していたサンプル数を分析できなかった。このため、次年度は今年度予定していたサンプルも含めて分析を行う為、サンプルの前処理の補助などを行う人員を雇用する。
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