研究課題/領域番号 |
23651007
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松崎 浩之 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60313194)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | ヨウ素129 / 加速器質量分析 / 沈み込み帯 / ヨウ素循環 / 地下流体 |
研究概要 |
日本列島は,プレート沈み込み帯に位置し,列島をなす固体物質は,数Maから数百Maのタイムスケールでダイナミックに変動している。本研究では,テクトニックなセッティングの異なる日本各地に産するヨウ素含有流体を分析することによって,ヨウ素の動態を明らかにすることを目的としている。これまでに,北海道各地から温泉水を採取し分析した。温泉の胚胎岩層は,その成因から大きく5つのグループに分類することができた: 第1のグループは,天然ガスサイトに関連する温泉で,いずれも新第三紀海成層であり,ヨウ素含有温泉のマジョリティである。泉質はいわゆる"化石海水"的なものであり,主要成分は海の組成に近いが,ヨウ素は極めて濃縮している。第2のグループは,新第三紀海成層ではあるが,古丹別層に胚胎される温泉であり,重力堆積物層あるいはタービダイト層とされている。第3のグループは,内陸部の温泉水であり,中生代から古第三紀の海成層とされている。第4のグループは,古第三紀陸成層,第5のグループは,タフや火成岩などの火山活動に関連する層である。これらについて,ヨウ素同位体比(129I/127I)および安定ヨウ素濃度を測定し,流体に関する混合曲線を書くと,どの測定点も,単一の岩層と天水および海水の混合によって説明できた。しかし,その単一岩層の持つ同位体比は,第1のグループは129I/127I=1.5x10-13程度であるのに対し,第2,第3のグループは,129I/127I=4x10-14程度となり,異なる起源の天然ヨウ素の存在が示唆される。また,こうして推定されたオリジナルの天然の同位体比から算出される年代は明らかに地質学的年代よりも古く出る。これに関しては,今後「ヨウ素年代は正しいとしてヨウ素動態をメカニカルに解釈する方向」,もしくは「同位体比の初成値を再検討する方向」,の両面から検討していきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は,北海道から東日本までの温泉水等を採取し,分析する予定であったが,東日本大震災に引き起こされた,福島第一原子力発電所の事故により,原子炉起源のヨウ素129が環境中に拡散した。したがって,まず,河川,地下水などに,事故起源のヨウ素129がどの程度影響を及ぼしているかを調べる必要があったため,実試料の解析は北海道の試料に限られた。なお,事故の影響は,例えば,河川水などに,福島県を中心として,関東地方にも影響が出ていることが確認されたが,地下流体への影響については結論を出すだけのデータが揃っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,日本列島におけるテクトニックなセッティングの異なる日本各地に産するヨウ素含有流体を分析することによって,ヨウ素の動態を明らかにすることを目的としている。平成24年度は,3つの視点から分析計画を進めたい。第1は,北海道の温泉水の分析から,地下の岩層によって,起源の異なるヨウ素の存在する可能性が示唆されたため,特に造岩年代の古い岩層に関連する温泉をねらって分析し,起源が複数あるかどうかを調べる。第2には,当初の計画とおり,西日本から九州へかけての温泉水の分析を試みる。フォッサマグナを境に,東日本と西日本の地層の成り立ちは大きく異なるため,ヨウ素の起源についても異なる傾向が見られるかどうかについて調べる。第3として,福島第一原子力発電所の事故によるヨウ素129の漏洩が,地下流体にどの程度の影響を及ぼすかを調べ,人為起源でない天然のヨウ素同位体を調べる際の問題点について,知見を得る。また,以上得られた知見を総合し,本研究課題のまとめを行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
10月頃までに,西日本の各地でサンプリングを行う。その旅費および採取した温泉の送付代金として研究費を使用する。収集したサンプルの化学処理のために,薬品類や化学実験器具を購入する。また,安定ヨウ素の測定にICP-MSを用いる予定であり,そのために必要な薬品,消耗品を使用する。同様に,ヨウ素同位体比の測定は,加速器質量分析を用いるため,ターゲット用カソードなどの消耗品を購入する。化学処理の一部は,アルバイトを雇用して行うため,謝金を使用する。成果については,国際会議での発表を考えているため,旅費を使用する。
|