研究課題/領域番号 |
23651008
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渡邉 泉 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30302912)
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研究分担者 |
東 信行 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (40262977)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ルビジウム / 生体微量元素 / 重金属 / 野生生物 / 生態情報 / タリウム / カリウム |
研究概要 |
アルカリ金属であるルビジウムと併せて28種の微量元素分析を行い、野生生物の体内に蓄積したルビジウムが、どのような生態情報をどの程度、反映しうるのか解明することを目的として研究を遂行した。 平成23年度は、津軽平野および奄美大島の生態系を用いて、解析を行った。まず、奄美大島では先行研究から水銀に加え、ヒ素、アンチモン、鉛の環境レベルが比較的高いことが、表層土壌を用いたアプローチから推察されていたが、重金属の蓄積植物であるキク科のコセンダングサを用いて、その傾向を確認した。つまり、土壌中のレベルに加え、生物利用可能な画分の微量元素が植物体内へも効率的に移行していることを明らかにした。その中で、ルビジウムは茎と根において強毒性元素であるタリウムと、葉においてタリウムに加え、高レベルが推察されているアンチモンと類似の挙動を示すことが示唆された。津軽平野ではリンゴ果汁を用いて、生産地の判別がどの程度可能か検討した。その結果、各地から集められたリンゴ果汁は日本産と中国産、長野産と津軽平野産で90%以上の高い確率で判別可能なことが明らかとなり、その判別因子にルビジウムも高い寄与率を示した。さらに、津軽平野で採取された昆虫のスカシバは、ホストとする樹木の微量元素環境を明らかに反映することが示され、同様に、判別因子の一つとしてルビジウムが高い割合で寄与していた。 このように、本年度の研究成果は、異なった2つの生態系において、ルビジウムが土壌-植物間、植物-動物間の動態を鋭敏に反映すること、その挙動には共に栄養元素であるカリウムとの関係が知られるタリウムやアンチモンと類似した性質を有することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成23年度は、奄美大島と津軽平野という、まったくタイプの異なる2つの生態系において、ルビジウムが土壌-植物間、植物-動物間の動態において鋭敏に生息環境を反映する元素グループに属すること、なかでも、栄養元素であるカリウム(ルビジウムと同じアルカリ金属元素)と類似の挙動を示すことが知られる強毒性元素タリウムと似た動態を持つ可能性を示唆した。 このことは、ルビジウムが平成24度以降対象とする、さらに高次の動物においても、生息環境や独特の生物学的諸条件(換羽など)を鋭敏に反映する可能性を期待させ、初年度としては充分なせ成果と結論付けられた。実際、現時点で、河川生態系の構成生物(モクズガニやカジカ)や野生鳥類(おもに猛禽類など)の採取も計画通りに行っており、分析の進展は仮説の検証を有効に進めると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年となる平成24年度は、続行して津軽平野の生態系と、拡大させて海洋環境にも着目し、水圏生態系における微量元素の動態解析にルビジウムがどの程度、有効なトレーサーになるか解析を進める。また、野生動物、なかでも鳥類(猛禽類)の羽と哺乳類(クマなど)の毛にも注目し、これら硬組織に含まれるルビジウムが、どれだけ生態情報を反映しうるか、多元素分析を併せて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
おもに、誘導結合プラズマイオン源質量分析計を用いた微量元素分析となるが、予算の多くは化学分析のためのガス類や試薬、そして機器のメンテナンスに割かれることが予想される。くわえて、津軽平野でのサンプリングは続行して行う予定であり、これまで実現が困難であった春のサンプリングに加え、夏と秋にも網羅的な試料採取を行いたい。さらに各種学会(環境化学討論会や日本環境学会の研究報告会など)に参加することで、生体微量元素、重金属汚染に関する情報収集を行う予定である。
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