研究課題
生体内に比較的多量に存在する一族の微量元素ルビジウムは、これまで生態系内での知見がほとんどない元素であった。本研究は様々な生態系内の野生生物体内におけるルビジウム濃度を分析し、その他の微量元素や超微量元素レベルと併せて解析することで、ルビジウム濃度が未知の生態情報を反映しうるか検討することを目的とした。分析対象として青森県津軽平野のフクロウ、トビ、マガモ、カジカ、モクズガニそしてスカシバ、長野県のツキノワグマ、またスズメを対象として池袋、新潟県、つくばの3ヶ所、さらに太平洋のアメリカオオアカイカを供試した。化学分析はICP-MSを用い、ルビジウムを含めた28元素濃度を定量し、多変量解析を試みた。その結果、無脊椎動物のスカシバ、モクズガニ、アメリカオオアカイカでは、それぞれ異なった産地の判別にルビジウム濃度は有効であることが明らかになった。ここで、イカ類は数百kmレベル、モクズガニは数km、スカシバは数百mのレベルで判別され、ルビジウム分析が様々なスケールで生息環境を反映する有効な指標となる可能性が示唆された。この傾向は県をまたいだ鳥類のスズメ、長野県内の哺乳類であるツキノワグマにおいても認められ、無脊椎動物だけでなく、脊椎動物の体内レベルも生息地判別に有効であることが考えられた。3種の大型野生鳥類を用いて、羽毛の元素レベルが食餌由来の内因性もしくは大気吸着由来の外因性かの判別を試みた。その結果、ルビジウムは羽軸にくらべ羽弁に高く、また羽弁の中でも内側にくらべ外側で有意に高レベルであった。このことから、主に外因性の汚染を反映することが明らかになった。しかし、肝臓中には羽毛よりも高レベルのルビジウムが蓄積されており、体内組織と体外に露出した硬組織では異なった蓄積メカニズムが存在すると考えられ、その究明は今後の課題と結論された。
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