湖沼堆積物には過去の気候変動が記録されている。しかし、湖沼堆積物から各種分析で得られる記録は複数の気候因子の影響を受け、その解釈は複雑である。本研究では、湖沼堆積物に含まれる珪藻殻の酸素同位体比が湖水の酸素同位体比と湖水温の影響を受け、一方、水棲植物起源のセルロースの酸素同位体比が湖水の酸素同位体だけの影響を受ける点に着目し、両データを比較することで、湖水温変動を定量的に推定する「同位体温度計」の開発を目指した。本アプローチを確立し、その有効性を検証するために、1)湖沼堆積物から珪藻殻を分離する方法の検討、2)五フッ化臭素を使ったケイ酸塩の高精度酸素同位体分析装置の開発、3)銅アンモニア水溶液を用いた堆積物中のセルロースの溶解および再生法の検討を行なった。その結果、純粋な珪藻殼を堆積物から分離できれば、珪藻殼の酸素同位体比を0.1‰の再現性で測定することが可能となった。琵琶湖堆積物には、陸減起源のセルロースがかなりの割合で混入していることが明らかになった。本方法を実際の試料に応用するためには、セルロースの起源を明確にするために湖沼への陸減物質の輸送などに関しての検討が必要であることが明確になった。中国東北部の火山湖と琵琶湖の表層堆積物の珪藻殻の酸素同位体比とセルロースの酸素同位体比分析を実施した。両地域の推定平均気温(再解析データから推定)と同位体温度計で得られた温度差はほぼ等しく、湖沼堆積物の同位体温度計の有効性を部分的であるが確認できた。
|