まずは実施した調査について、文献サーベイと現地調査に分けて記す。文献サーベイは、和文、中文、英文の関係資料、特に環境訴訟と公害被害者救済に関する資料を集中的に収集し、英文資料については京都、大阪の研究者と定期的な講読勉強会も企画してより多くの資料の収集と把握に努めた。 次に、現地調査では、貴州省貴陽市及び江蘇省無錫市の地方裁判所に設置された環境関係の案件を専門に審理する部局にヒアリング調査を行い、訴訟による公害被害救済の現状と問題点を探った。また、北京で開かれた環境NGO集会に参加し(2013年12月)、被害者救済問題に対する環境NGOの最新の動きを把握した。さらに、公害被害者を支援する弁護士に対してヒアリング調査を実施し、日本での研究会招聘につなげた(2013年6月)。 これらの調査の結果、本研究の第1の目的である「被害救済プロセスにおける阻害要因」として、そもそも裁判所が、社会の不安定化の要素となり得る案件を敢えて受理しない傾向があることが明らかとなった。裁判所によっては、これを徹底するために内部規定すら設けていた。これまでは、訴訟が受理された後の政府・党からの圧力に関する指摘に止まっていたが、実際には上記のような裁判所の自制が被害者救済の阻害要因として大きく働いていると思われる。また、第2の目的である「公益訴訟の試みとその限界」については、公益訴訟の主体となるべきNGOの活動や資金集めに対する制限などが明らかとなった。 これらの研究成果は、中国環境問題研究会(2012年6月)、日本現代中国学会(2013年6月)、国際コモンズ学会(IASC、2013年6月)で報告した。また、2013年7月刊行の『環境と公害』(第43巻第1号)、2014年3月刊行の神戸外大論叢(第64巻第4号)で公表した。
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