研究課題/領域番号 |
23651047
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井倉 正枝 京都大学, 放射線生物研究センター, 研究員 (40535275)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | TIP60ヒストンアセチル化酵素 / iPS細胞 / DNA損傷応答 / ヒストンH2AX / 細胞の多能性 |
研究概要 |
我々は、TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体が、ヒストンH2AXのアセチル化を行い、DNA損傷領域のクロマチンからH2AXの放出を促すことを見出している。H2AXのクロマチンからの放出は、損傷領域のクロマチンの構造変換を促していると考えられる。このH2AXの動的な変化は、DNA損傷のない、生理的な条件下ではH2AXを含むクロマチンを弛緩させ、一過的に染色体の不安定化を招く可能性がある。一方、iPS細胞の誘導は、p53のノックダウンなどによる染色体の不安定化によって促進されることが明らかにされている。本課題では、TIP60を発現させることによりH2AXを介したクロマチン構造の弛緩を誘導し、染色体の不安定化を人為的に引き起こし、そのことがiPS細胞の誘導あるいは維持に関与する可能性を探ることを目的としている。本年度(平成23年度)は、TIP60の発現がiPS細胞誘導を促すかの検討をおこなったが、結果は、TIP60は、iPS細胞の誘導には関与せずにむしろiPS細胞の多能性の維持に関与している可能性が高いことを示唆するものであった。この現象が、TIP60によるH2AXのアセチル化によるものかについては現在検討中である。またc-Mycを取り除いた条件でTIP60を発現させてTIP60がc-Mycの代わりにiPS細胞の誘導を促すかについては、TIP60の発現が、cMycの機能を補填することはなかった。 H2AXをクロマチンから放出させるためにはTIP60がクロマチンに結合する必要があるが、これまでの研究から我々は、TIP60のクロマチンへの結合を誘導する因子をTIP60複合体の構成因子から見出しており、今後はこの因子の過剰発現がiPS細胞の維持に関与しているか否かについても検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TIP60のアセチル化酵素活性がiPS細胞の誘導効率を上げることには寄与せず、むしろ維持に関与している可能性があり、現在その検証を行っているが、もともとiPS細胞は、誘導効率は極めて低く、やはりTIP60のiPS細胞維持の役割をより明確に解析するにはiPS誘導効率を上げた条件下での検討が望まれる。その点を改善すべく,まずはiPS細胞化の誘導効率を上げることも検討する必要が出てきた。この点が、当初の予定よりも少し計画が遅れた理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を遂行するにあたり特に問題点や計画を変更する点はないが、11.の項目でも述べたように、iPS細胞の効率化を上げる工夫が必要であるが、最終年度である24年度内にそのiPS細胞の効率化の問題を解消することは極めて困難を伴うことが予想される。そこでこの問題を解消するために、マウスES細胞を用いた実験も予定したい。すなわち、ES細胞は、その多能性を分化抑制因子の存在下で維持しているが、この因子の有無の条件下でTIP60をノックダウンし、TIP60の細胞多能性維持における関与を検討していきたい。さらにTIP60複合体のDNA損傷応答シグナル活性化における役割がかなり詳細に明らかになってきたこともあり、TIP60およびH2AX複合体の構成因子の中で、TIP60と協調的にiPS細胞維持に働く可能性のある因子についても今回の課題提案の中に組み込み、iPS細胞の維持機構の詳細を明らかにしていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
TIP60ヒストンアセチル化酵素が、iPS細胞の維持に関与していることが明らかになった。TIP60は、蛋白質複合体として機能しており、その構成因子の中で、ヒストンH2AXの損傷部位でのアセチル化に関与する因子を現在同定しているところである。24年度は、iPS細胞の細胞培養に関する試薬、TIP60およびH2AX複合体の構成因子の中でiPS細胞の維持に関与する因子についてのsiRNAなどを購入する予定である。さらにTIP60によるH2AXのアセチル化によってもたらされる染色体の不安定化の実験において、ヘテロクロマチンのリピート配列領域の転写量の変化を指標に検定する予定であるが、この転写量の検定に必要な試薬も次年度の研究費から使用する予定である。またこれらの研究によってもたらされた研究成果を論文および学会等で発表する予定であり、それらに関わる費用に使用する予定である。
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