我々は、これまでにTIP60ヒストンアセチル化酵素複合体によるヒストンH2AXのアセチル化を介したDNA損傷領域のクロマチンからのH2AXの放出という知見を見出している。本課題の目的は、この知見に基づき、DNA損傷のない、生理的な条件下ではH2AXを含むクロマチンを弛緩させ、一過的に染色体の不安定化を招く可能性を示し、このことがiPS細胞の多能性獲得に関与するか否かを検証することである。p53のノックダウンによる染色体の不安定化によってiPS細胞やES細胞の多能性が促進されることが明らかにされている。本課題では、これらの事実に着目し、TIP60を過剰発現させることによりH2AXを介したクロマチン構造の弛緩を誘導し、染色体の不安定化を人為的に引き起こし、そのことがiPS細胞の誘導あるいは維持に関与するか否かを検討する。本年度(平成23年度)は、TIP60の発現がiPS細胞誘導を促すかの検討をおこなったが、結果は、TIP60は、iPS細胞の誘導には関与しないという結果になった。この結果は、TIP60の発現レベルの問題もあり、現在、LacO配列をタンデムに結合させた遺伝子を染色体に組み込み、LacIに結合させたTIP60を発現させる系を構築し、TIP60を染色体上に濃縮させ、再度検討を予定している。染色体に結合させたTIP60が、実際に機能しているかは、H2AXのクロマチンから放出を細胞を分画することにより生化学的に検証して確かめる。また当初、TIP60のクロマチンへの結合を誘導する因子の過剰発現がiPS細胞の維持に関与しているか否かについても検討していく予定であったが、予定を変更して、テーレンを用いたノックアウト細胞を作成し、多能性の促進あるいは維持にどのような影響があるのかを検討しているところである。
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