研究課題/領域番号 |
23651048
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 啓司 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (00196809)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 甲状腺 / 放射線 / 幹細胞 |
研究概要 |
得られた細胞が幹細胞としての性質を有しているかを、幹細胞のマーカーであるCD34、Oct4、ABCG2において検討した。また、甲状腺特異的に発現が認められるマーカーについて検討した。その結果、甲状腺未分化細胞は、幹細胞のマーカーを発現していないが、甲状腺組織に分化する再最初に発現するPax8のみを発現している事がわかり、ES細胞のような高度に未分化な細胞ではない事が明らかになった。 クローン化された甲状腺未分化細胞が正常ヒト細胞の核型を有しているか確認するため、コルセミド(0.1 μg/ml)処理により分裂中期細胞を集積させて回収後、低張処理およびカルノー液による固定を施して染色体標本を調整し、ギムザ分染法により染色体核型の解析を行った。その結果、染色体数は43本を中央値に持つ分布を示す事がわかり、何らかの染色体異常が生じている事が明らかになった。 甲状腺細胞は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)に反応して分化し、甲状腺ホルモンを分泌するようになる。そこで、クローン化した甲状腺未分化細胞が、TSHに応答して分化する細胞であることを確認するため、甲状腺未分化細胞を、高密度二次元培養法、あるいは三次元培養法により数ヶ月間維持し、この間TSH(10 mU/ml)を持続投与して、分化形質の発現誘導を確認した。生体内では、甲状腺組織は三次元的な濾泡の集合体として観察されることから、三次元培養は撥水性処理を施した培養ディッシュに細胞を播種し、細胞同士の接着によりスフェロイドを形成させた。形成された三次元的な濾泡様甲状腺スフェロイドを、長期間維持する事により細胞増殖と分化形質発現を検証した。その結果、いずれの培養法においても、細胞そのものは長期間維持できたが、甲状腺細胞の分化マーカーであるTGの発現はほとんど確認されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた平成23年度の研究実施計画をほぼ達成しているため、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今後の実験に用いる、137Csを線源とするγ線発生装置を用い、三次元的に培養された甲状腺スフェロイドを照射し、照射後アキュターゼ処理によりスフェロイドを単個細胞に分離し、コロニー形成法により生存率を検討する。対象としては、放射線照射していない甲状腺スフェロイドを用い、同様の方法で分離した細胞でコロニー形成率を求める。照射線量は、0.1 Gy~4 Gyの範囲で検討する。 放射線照射後の発がん形質の発現には、適当な細胞分裂数と培養時間が必要である。そこで、0.1 Gy~4 Gyの放射線照射後、甲状腺スフェロイドを1週間~数ヶ月の間そのまま培養し、次項の検討する発がん系の確立と平行しながら発がん形質発現時間を確定する。 細胞接触による細胞増殖抑制は正常ヒト細胞の特徴であるが、がん細胞は増殖が停止した正常細胞に重層するように増殖し、いわゆるフォーカスを形成する。そこで、発現時間を経た甲状腺スフェロイドをアキュターゼ処理により単個細胞に分離した後、100mm直径の培養ディッシュに、104個程度の細胞を播種し、一週間培養した後に細胞がコンフルエントになるようにする。その後、さらに四週間まで、培地交換だけを繰り返して培養を継続し、その後3%ギムザ液で細胞を染色し、単層の正常細胞の上に形成されたフォーカス数を計測する。フォーカスの形成は、細胞がコンフルエントに達した後の培養環境に影響されることから、この時期の培養に用いる血清の濃度を1%~5%の範囲で変化させ、対象細胞でのフォーカス形成頻度を考慮しながら、最適な血清濃度を決定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度配分が予定されている研究費については、消耗品費(100万円)および旅費(10万円)として使用する予定である。消耗品については、細胞培養に必要な細胞培養試薬、細胞培養器具、および幹細胞機能の解析や発がん系の樹立に必要な生化学試薬、抗体などの購入に充当する。旅費については、研究成果の発表のための国内旅費に使用する。
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