研究課題/領域番号 |
23651051
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研究機関 | (財)電力中央研究所 |
研究代表者 |
大塚 健介 (財)電力中央研究所, 原子力技術研究所, 主任研究員 (50371703)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 放射線 / 低線量 / 幹細胞 / 腸管 / ターンオーバー / 障害蓄積性 |
研究概要 |
本研究は、放射線を被ばくした個体において、放射線障害が組織に蓄積して発がんの原因になるかを明らかにすることで放射線のリスク評価に資することを目的としたものである。本研究では、組織の中でも、組織を生涯に亘って維持する幹細胞(組織幹細胞)についての障害蓄積性を重視し、放射線照射後の組織幹細胞のターンオーバー動態を評価する手法の確立を目的とした。まず、腸管組織の幹細胞(Lgr5強発現細胞)とその子孫細胞をタモキシフェン投与によって誘導する時期特異的組み換え(Cre/loxP組換え)で標識する手法(lineage tracing)を利用して、Lgr5幹細胞をタモキシフェン投与によって標識してCreを活性化させ(Lgr5-cre)、標識した幹細胞の動態が追跡可能なレポーター遺伝子(LacZおよびtdTomato)を発現するマウスを作出した。LacZレポーターマウスを用いた場合、腸管組織を幹細胞を含むクリプトの短径方向に薄切することで、効率よく標識されたクリプトの頻度を定量的に評価することができ、その条件でマウスに放射線(X線1Gy)を照射すると、大腸で顕著なターンオーバーを観察することができた。また、tdTomatoレポーターマウスを用いたことで、標識された幹細胞とされなかった幹細胞を蛍光の違いで区別することができた。この実験により、大腸においては照射によって照射前に標識した幹細胞が減少したが、照射後に標識されていない幹細胞が新たに作られたことがわかり、幹細胞のターンオーバーが起こっていることを直接証明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のゴールは、組織幹細胞のターンオーバーを解析する手法を用いて、放射線影響を定量的に評価すること、そして、その手法を低線量・低線量率放射線の障害蓄積性を幹細胞の時空間的動態から解析する手法の確立にある。23年度までに、幹細胞動態を定量的に評価することができること、および1GyのX線によって有意にターンオーバーを誘発することを示す段階に到達したため、研究はおおむね順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度で確立した手法を用いて、低線量率放射線(ガンマ線)照射後に腸管クリプトの幹細胞がどのように応答するかを、幹細胞ターンオーバーを評価する手法と、組織化学的な解析とを組み合わせて、組織内の時空間的動態を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の実験がおおむね順調に進んだことで、消耗品の使用が予定よりもやや少額となった。平成24年度に繰り越しする額については、低線量率放射線の照射実験を精度よく定量的に行うため、使用する動物の維持費、解析する実験試薬の購入費、組織内動態を評価するための生化学・分子生物学試薬の購入のための消耗品費に充てる。また、本研究で得られた成果を、国外(米国放射線研究学会、プエルトリコ)での発表のための旅費として使用する。
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