研究概要 |
X染色体の活性は単一の遺伝子で制御され不完全要素が多いながら脳神経系や生殖系、免疫系など広範に影響が波及すること、さらにその機構は多くの化学物質の作用点として見出されているエピジェネティクスによるものであり化学物質に対する脆弱性が高いと推察される。この毒性メカニズムの解明と体系化を目指し、脳発達や雄性生殖、エピジェネティクスへの影響が報告されているビスフェノールA 0.02,50mg/kgをICR系妊娠マウスに妊娠6,15日齢に経口投与、その出生仔について検討した。雌性出生仔は2、4日齢、3、7週齢で解剖しその大脳中遺伝子発現量をリアルタイムPCR法で検討、特に3、7週齢でX染色体不活性化因子であるXistの有意な発現減少とそのアンチセンスであるTsixの発現上昇が認められ、不活性化の維持機構への影響が示唆された。さらに精神神経疾患の原因遺伝子でありかつ分子機構が明らかなX連鎖遺伝子の発現変動を検討、3、7週齢でFmr1(神経細胞でmRNA輸送、脆弱X症候群に関与)、Nlgn3(シナプス連結、遺伝性自閉症に関与)、Pak3(ニューロン伸長、X連鎖精神遅滞に関与)、Gdi1(神経伝達物質放出、X連鎖精神遅滞に関与)の有意な発現減少が認められ、X染色体を介した影響がこれまで報告されてきた行動異常や組織障害の作用機序となりうることが示唆された。さらにXistとTsixのメチル化レベルをMSP法で検討、ほぼすべての時期で大きな変動は認められず影響はXistおよびTsix RNA(ノンコーディングRNAとして機能)を介するものと考えられた。なお肛門生殖器官距離や性ホルモンレセプターの発現変動など性染色体としての影響も生じている。雄性出生仔については7週齢で検討、精巣重量や精子正常形態率、一日精子産生量の有意な減少が認められ、現在精子形成や生殖能獲得に重要なX連鎖遺伝子を検討中である。
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