研究概要 |
X染色体不活性化は単一の遺伝子で制御されその機構も不完全要素が多いが、脳神経系や生殖系など作用が広範に波及することから化学物質胎児期曝露に対する脆弱性が危惧される。 我々はディーゼル排ガス胎仔期曝露について報告し(Kumamoto et al.,JToxSci,38(2),2013)、また、前年までにビスフェノールA胎仔期曝露がマウス大脳でX染色体不活性化因子(Xist,Tsix)の発現変動とともにX連鎖性脳発達関連遺伝子(Fmr1、Pak3、Gdi1、Nlgn3)を発現変動させることを見出している(Kumamoto and Oshio,JToxSci,2013,in press)。さらにX染色体不活性化因子と脳発達関連遺伝子のDNAメチル化解析を進めたが有意な変動は認められず影響はノンコーディング遺伝子であるXist,Tsix RNAを介するものと推察された。 さらにXistを中心に探索を進め、ベンゾaピレン胎仔期曝露で顕著な差が見いだされた。ICR系妊娠マウスに妊娠7-15日目まで一日おきに20および80、320mg/kgを経口投与、その出生仔を検討し、雌出生仔の4日齢でXistの曝露濃度依存的な発現減少が認められたが、Nlgn3の減少を除きTsixおよびX連鎖性脳発達関連遺伝子に有意な差はなく、現在、発達過程での影響を検討中である。雄出生仔の7週齢で曝露濃度依存的な精巣萎縮と精子形成異常が認められ、その精巣中遺伝子発現を検討、Xistおよび検討した全てのX連鎖性精子形成関連遺伝子(Tex11、Tex13、Usp26、Taf2q、Taf7L、Nxf2、Fthl17)の曝露濃度依存的な発現減少が認められた。Tsixに差はなかったが、DNAメチル化酵素Dnmt1やヒストン脱アセチル化酵素Hdac1に有意な差がみられ、今後エピジェネティカルな影響について検討していく予定である。
|