研究課題
初年度は、1.亜ヒ酸によるS100A9の誘導機構の検討、および、2.S100A9の測定方法の樹立を行った。1.すでに亜ヒ酸がマスト細胞であるRBL-2H3細胞でS100A9の誘導を起こすことを見出している。そこで、ヒ素の標的となる他の細胞においても、同様の現象が起こるかどうか検討したところ、皮膚由来のHaCaT細胞、膀胱上皮由来のUROtsa細胞においても亜ヒ酸によってS100A9が誘導された。そこで、S100A9のpromoter(-1000/+429)領域にルシフェラーゼcDNAを連結したレポーターcDNAを作成し、HaCaT細胞に導入した。この細胞を亜ヒ酸に曝露すると、確かにS100A9の転写が活性化されたことから、亜ヒ酸によるS100A9の誘導は転写レベルで起こっていることを確認した。さらに、S100A9のpromoter領域にNrf2の結合領域(antioxidant response element/ARE)が2ヶ所存在することを見出したので、deletion mutantを作成してどちらのelementが関与しているか検討したところ、ARE2がヒ素による転写活性化に関与している可能性を見出した。2.ヒトサンプルを用いてS100A9のレベルを測定するため、S100A9のELISAシステムを構築した。大腸菌の高発現系を用いてhuman recombinant S100A9を作成した。本タンパク質を抗原として抗体を作成し、ELISA法を構築することに成功した。このELISAを用いて、バングラデシュのヒ素汚染地域から入手したヒトの尿において、S100A9が検出可能かどうかを検討した結果、確かに検出できた。今後、このシステムを用いて、血清中でのS100A9の測定を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究目的であるS100A8/A9の誘導機構の解明、測定方法の樹立について、S100A9については達成することができた。しかし、このタンパク質はS100A8とS100A9のそれぞれのホモダイマー、あるいはヘテロダイマーとして存在する。従って、理想的にはそれぞれのタンパク質の測定方法の樹立が必要である。しかし、S100A9が上昇するときには同時にS100A8も上昇することが多いので、当面の測定は可能になったと考えている。今後、S100A8についてもrecombinantタンパク質と抗体の作成を試みる予定である。また、ヒト試料での検討については、現時点での血液試料のサンプル数が少ないため、まず、尿試料を用いて検討した。しかし、今後は血液試料を用いての検討が必要である。
S100A9については、ヒト試料を用いての測定方法が樹立できたので、今後、バングラデシュなどのヒ素汚染地域から入手した血液試料を用いて、実際のヒ素汚染とS100A9レベルとの関係を調べていく予定である。一方、S100A8/A9はCa結合タンパク質であるが、最近の研究により、Zn, Mnなども結合する可能性が報告されている。バングラデシュのヒ素汚染地域ではMnレベルも高いことが知られており、今後は、ヒ素のみならず、他の金属とS100A8/A9との関係も調べる必要がある。また、ヒ素が様々な免疫担当細胞における免疫能を変化させることが知られているので、これらの免疫担当細胞におけるS100A8/A9の役割とヒ素の影響について、さらに詳細な検討を行う。
培養細胞を用いた実験、および、ELISAを用いた実験のために必要な試薬、器具類が必要である。また、ヒ素汚染地域からの血液試料の収集のために外国旅費が必要となる。研究成果を公表するための学会出張旅費、および、投稿料、英文校正料などが必要である。
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