本研究は、汚染された水から汚染物質を取り除く際に用いられる吸着剤に、その比重を自己制御することによって沈降や浮上する機能を付加した新規な吸着剤の開発を目指したものである。この吸着剤は、最初は沈降するが、水の底で汚染物質を吸着した後に、水面に浮上してくるものであり、撹拌の困難な場所での吸着剤の使用を可能とし、かつ吸着後の吸着剤の回収を容易にする。この目的のためにアルギン酸ゲルビーズの中に、浮きとして二酸化炭素の気泡を、重りとして炭酸カルシウムを用い、最初は炭酸カルシウムの重りによって比重が水より大きいためにこのゲルビーズは沈降するが、弱酸性の水の中で炭酸カルシウムが徐々に溶解すると、今度は気泡の浮きとしての働きによって浮上してくる。沈降している間、浮上の間に汚染物質を吸着でき、汚染物質を吸着後に水面に浮上することから容易に回収できる。本年度は、水素イオン置換型のイオン交換樹脂と炭酸塩をゲルの中に詰めたものについて検討し、水中のセシウムイオンがイオン交換体の水素イオンとイオン交換し、放出された水素イオンがゲル中の炭酸塩を溶解することによって浮上することを見出した。添加する炭酸塩量を調整することにより、汚染物質のイオン交換体への吸着の完成によって浮上が開始するようにすることもできる。二酸化炭素の気泡の代わりに、火山灰から作製されたシラスバルーンを用いる方法についても検討した。このシラスバルーンは、ゲルビーズ吸着体の浮きになるだけでなく、その表面をメルカプト基で修飾することにより、水に浮上する重金属イオンの吸着剤になりうることを示した。麹とイースト菌をデンプンとともにゲル内に封入したものでは、これらの微生物の働きにより、ゲル内で二酸化炭素が発生しゲルビーズが浮上してくる。微生物の働きは温度に依存するので、冬の間は沈降し春になって浮上するような吸着剤の開発の可能性を示すことができた。
|