研究課題/領域番号 |
23651070
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
左子 芳彦 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60153970)
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研究分担者 |
吉田 天士 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80305490)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 一酸化炭素資化 / 二酸化炭素 / 環境修復 / COデヒドロゲナーゼ / C1化学 |
研究概要 |
本研究は、地球温暖化原因物質であるCO2の再利用を目指し、CO⇔CO2の酸化還元両反応を触媒可能な酵素CODH(CO デヒドロゲナーゼ)を有する一酸化炭素資化性微生物を熱水環境から分離し、本酵素を利用してCO2からメタン、メタノール等C1化学物質の初発物質であるCOを生産し持続的低炭素社会の基盤を創生することである。すなわち高いCODH活性を有するCO資化性微生物を、CO等を含む火山性ガス成分の多い海洋熱水環境から分離を行う。次に本種由来CODH遺伝子の発現系を確立し、CO2から炭素数1の有機化合物合成の初発物質であるCOを本酵素により生産し、石油等の代替でCO2からC1化合物やポリマーの生産基盤を構築する。平成23年度の成果は、以下の通りである。(1)試料採取地点の検証を行った結果、高温で高濃度COが存在する火山性海洋熱水環境である鹿児島県指宿市山川の沿岸熱水孔と周辺の火山性温泉(鰻温泉)や深海熱水孔(鬼界カルデラ)を代表的な試料採取地とした。各地の熱水環境の温度、pH、CO濃度および酸素濃度を測定し、試料採取に適当な地点を探索し熱水環境試料を入手した。(2)本試料に対して16S rDNA と既知CODH遺伝子をPCR法によりDNAクローン解析を行った結果、CO資化性菌の存在と分類学的情報が明らかになり、本結果を基にCO雰囲気下で多様な培養条件を検討し希釈法により好熱性CO資化性菌を複数分離した。分子系統解析の結果、一株はCarboxydothermus属の新種で、他の分離株はCarboxydonellaに近縁な新属種であった。(3)両分離株は気相100%のCO下で65℃で増殖し、CO資化能と水素生産能を有する新種であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は、CO資化性微生物という大変培養困難な微生物の分離を行うために、試料採取地点の環境特性をまず十分調査して、分離の確立を上げることに力を注いだ。予備調査が的確に遂行されたために、採取地点の特定と分離条件の設定が的確にでき、当初の目標通りにCO資化菌と推測される株の分離に成功した。これは現地の環境調査並びにPCR法による試料中の生息微生物の正確な推測がなされたために、分離を進めることができたものと思われる。また本研究室において、長年の難培養微生物の分離と培養技術における研究の蓄積があったことが今回の結果に貢献したことは明らかである。しかしながら一方で、これまで日本では分離されたことが無く、全くの新種であるため培養条件に不明な点が多く、本分離株の維持は極めて困難である。今後多様な培養条件を検討して、より良い増殖条件の検討が必要になると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の成果を踏まえて、今後の主な研究の推進方策は以下の通りである。(1)分離株の詳細な生理学的特性の解析とCO資化能及びCODH活性の検出を行う。本年度に得られたCO資化性菌を種々の培養条件で培養し、異なる生理的条件下や各増殖段階においてCOをガスクロマトグラフィーにより測定して、本分離株のCO資化能を解析する。また最も活性の強い条件下で菌体を集菌し、嫌気チャンバー内で細胞を超音波処理で破砕し遠心後の上清液と沈殿画分における粗酵素液をnativePAGEにて泳動する。活性反応は酵素CODHが基質のCOを、CO+MV(methyl viologen)→CO2+MV(還元型・青色)の反応式に従って酸化することにより活性バンドを検出して本酵素の活性を確認する。(2)CODH遺伝子のクローニングと発現ベクター系の構築を試みる。最近全ゲノム解析がなされたCO資化細菌Carboxydothermus hydrogenoformans由来のCODHホモログの遺伝子塩基配列を参考にして、PCR法により分離株からCODH遺伝子ホモログの増幅を行い、シーケンスを行って本遺伝子の確認を行う。本遺伝子を発現プラスミドpET28-α(+)等に導入し、種々の大腸菌株で発現可能な宿主の検索を行う。またこの際、活性中心へのFe-Sクラスター生合成系遺伝子群を組み込んだ共発現系プラスミドを構築する。最終年度には本発現系を用いて、CODH遺伝子の大量発現系の構築と応用について検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度は、予備調査の下調べが的確であったため調査の回数が少なくてすみ旅費が比較的少なくてすんだため、旅費においては経費が節約できた。また比較的早い段階で目的とする分離株が得られたために、分離培養に必要とされる物品費に余裕ができた。従って今年度は、分離株を増殖させて詳細な生理学的特性の解析や、CODHの活性測定法の確立と本遺伝子の解析やクローニングに本来の計画に従って多くの時間と経費を使う予定である。
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