研究概要 |
地球生態系に高度に蓄積されながら未だに有効な活用分野が見出されていないリグニンは,石油資源の枯渇が迫るなか“有益な炭素系素材”としての期待が高まっている。本研究では,リグニンをリグノクレゾール(LC)として分離・精製する既存技術[Tappi J.,72,145 (1989)]を活用し,常温微加圧(0.3MPa以内)条件下,芳香族炭化水素類を99%以上の高効率で環還元できる当該研究者らの独自技術 [Environ.Sci.Technol.,43,5952 (2009)]を転用し,LCの芳香環を選択的に還元し,ポリマー増量/補強剤としても期待される高次構造を有する網目状の新規脂肪族炭化水素類(=リグノアルカン類:LA)の合成法の開発及び物性評価を目的とした。 初年度の研究ではLCの還元条件について検討した。触媒の種類や反応温度等の最適化を行った。処理前後のFT-IRスペクトルの比較から,LCで観察された芳香族炭化水素の伸縮振動がLAで消失し,さらに,1HNMR測定から芳香族プロトンのシグナルがLAでは脂肪族由来のシグナルへ変化したことを明らかにした。 最終年度では,ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)からなる容器包装リサイクルペレット(容リペレット)について、相溶化剤としてのLA添加の影響を検討した。先ず,LAを共存させずにPEとPPの等量混合物を加熱溶解後,徐冷して固化物を得た。得られた固化物の表面をメッシュ区分してFT-IRスペクトルの測定及びSEM観察を行った。ほぼ密度の等しいPE及びPPの等量混合物であるにも関わらず,得られた混合物は明らかに不均一な組成となった。一方,両者にLAを数wt%加えた後に加熱/徐冷を行うと,混合物中のPPとPEの混合比率が各メッシュ区間で均一となることを見出した。 以上のように,ポリマー相溶化剤としてのLA添加の有効性を実証した。
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