研究課題/領域番号 |
23651078
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
尾山 廣 摂南大学, 理工学部, 教授 (50221700)
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研究分担者 |
杉村 順夫 公益財団法人衣笠繊維研究所, その他部局等, その他 (20273542)
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キーワード | モリンガ / 種子 / タンパク質 / 濁水浄化 / 金属 |
研究概要 |
我々は、モリンガ樹(Moringa oleifera)の種子に含まれるタンパク質が微細な土壌粒子を沈澱させ、濁水を浄化する機能があることを見出した。この濁水浄化タンパク質(MOFP)には、無機土壌との相互作用を引き起こすためのペプチド鎖(モチーフ)と凝集・沈殿に関与するアミノ酸残基が存在する。本研究では、MOFPをコードする遺伝子をクローニングし、発現系を構築する。次いで、機能発現に必要かつ最小限のモチーフの検索とそれに必須のアミノ酸残基を同定する。これにより得られたタンパク質-無機物間の相互作用における新しい知見を基に、環境浄化に資するバイオ凝集・沈殿剤および無機捕捉バイオ素材を創成することが目的である。 平成24年度の成果を以下に示す。 (1) Inversed PCRにより、MOFPの3’末端の一部を除いた構造遺伝子の塩基配列とその推定アミノ酸配列(MOL-SEQ)を明らかにした。MOL-SEQはセイヨウアブラナの1.7S種子貯蔵タンパク質(Napin-2)、シロイズナズナの2S種子貯蔵タンパク質、バビンロウの耐熱性甘味タンパク質(マビンリン)との相同性が認められ、シグナルペプチド、プロペプチド、Sサブユニット(S-SUB)、プロペプチド、Lサブユニット(L-SUB)から成ることが推察された。 (2) S-SUBとL-SUBは、MOFP遺伝子から推定されるアミノ酸配列とプロテインシーケンスとの間に相違点が見られた。S-SUBでは、Q/C(遺伝子/タンパク質)の1ケ所とQ/E(G-P)の5ケ所、L-SUBではQ/E、Q/R、L/V、G/R、Q/Nのそれぞれ1ケ所であった。 (3) S-SUB、L-SUB及びS-SUB+プロペプチド+L-SUBのアミノ酸配列に対応する合成遺伝子を導入した組換え酵母を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでに、MOFP遺伝子のクローニングとその塩基配列の解析、S-SUB 遺伝子、L-SUB遺伝子、S-SUB+プロペプチド+L-SUB遺伝子の組換え酵母を得ているが、当初の研究計画より進行が遅れている。その主な理由は次の通りである。 実験に使用しているモリンガ樹の種子(local-type)が発芽せず、葉からのDNA抽出ができなかった。新たに種子を入手することは可能であるが、同じ産地であっても、植物のタンパク質には塩基配列が異なる多型が存在するため、local-typeの種子からDNAを抽出した。しかし、種子には油脂が含まれており、十分に破砕することができず、組換え実験に資するDNAを得ることはできなかった。そこで、保存の染色体DNAを用いたinversed PCRによる遺伝子クローニング実験に特化したが、染色体DNAの量が限られていたため、いくつもの実験を同時進行できなかった。 3種の人工遺伝子(S-SUB、L-SUB及びS-SUB+プロペプチド+L-SUB)をKluyveromyces lactis GG799株の染色体DNA中に導入したが、この際の実験操作が初めてであったために、実験系の構築に時間を費やした。 前年度と同様、2月1日より4月19日まで科研費の執行が停止したため、試薬の購入ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
S-SUB遺伝子とL-SUB遺伝子は、MOFP遺伝子から推定されるアミノ酸配列とプロテインシーケンスとの間に相違点は、遺伝子多型やアミノ酸配列決定時の読み違え、グルタミンとグルタミン酸の置換については翻訳後修飾の可能も考えられる。塩基配列を再確認するために、inversed PCRの塩基配列を基に、染色体DNAからMOFP遺伝子を再クローニングし、MOFP遺伝子の全塩基配列を決定する。一方では、MOFP遺伝子の酵母及び大腸菌での発現系の構築と発現タンパク質の機能解析を目指し、次のような実験を計画する。 (1) マルチビーズショッカー(多検体破砕機)を用いて、液体窒素で凍結した種子を破砕し、染色体DNAの抽出を試みる。 (2) S-SUB遺伝子、L-SUB遺伝子及びS-SUB+プロペプチド+L-SUB遺伝子はKluyveromyces lactis GG799株の染色体DNA中に導入されたことがPCRで確認されている。これらの培養条件を検討し、それぞれの遺伝子の発現条件を検討する。また、発現タンパク質が宿主酵母由来の微弱なプロテアーゼにより分解された場合は、菌体外プロテアーゼ欠損株を宿主に用いることを検討する。一方では、酵母発現系に問題が生じる場合を想定して、これら遺伝子の大腸菌での発現系を構築する。さらに、ホモロジー検索の結果を基に、MOFPの凝集活性のモチーフを推定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、(1) モリンガ種子から染色体DNAを抽出する。(2) 3’側領域を再クローニングし、MOFP遺伝子の全塩基配列を決定する。(3) 組換えタンパク質の酵母および大腸菌における発現系を構築する。(4) MOFPの凝集活性のモチーフを推定する。 を行うと共に、遅れている課題を中心に実験を進める。なお、これらの実験は尾山と杉村が連携して行う。 直接経費は、人工遺伝子やプライマーDNAの合成委託、シーケンスの分析委託、宿主菌株及び発現ベクター、PCR用の試薬、コンピーテント細胞、プラスチック器具、ガラス器具、培養基材、一般試薬などの購入にかかる物品費や旅費等として使用する。
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