研究課題
酸化物の極性表面における電子状態や電荷分離挙動を検討するため、酸化物表面の検索・研磨加工、特に、欠陥濃度を低減し、高い結晶品質を維持しつつその表面を平坦化するための平坦化技術の検討、および、極性表面における原子配列を解明するための電子解説パターンに関する検討、および、表面の電子状態を知るための電子分光評価、さらに、表面反応のトレースのための、化学的な評価方法について、検討を進めた。研磨・研削技術については、これまでの機械化学研磨に関する検討を継続し、低欠陥濃度の酸化物表面を得るための、レシピを確立した。特に、結晶の硬度が低い酸化物半導体の研磨に置いて、研磨由来の転位の発生を抑え、欠陥によるキャリアーの再結合や散乱を低減した高品質の表面を得るための作業手順を確立した。こうして得られた表面を、光電子分光による結晶評価に適用した。特に、光電子の非弾性散乱によって得られる散乱パターンを得ることで、極表面での原子配列の評価に用い、より簡便に、極性表面の分極方向を知るための手段を確立した。これまで、広い角度範囲での光電子強度測定が必要であったところを、少ない測定回数で分極方向を見定められるような方法を得た。さらに、同じく光電子分光測定で、極性に関係した光電子スペクトルの変化を捉え、その極性に由来するスペクトルの特徴が、研磨や研削の状態に依らずに存在していることを明らかにした。このことから、敢えて表面を荒らした結晶や原子レベルでの平坦性を備えた結晶のいずれを用いても、結晶の極性に依存した特性を観測可能であり、それらの検討から、表面の欠陥濃度と表面での電荷分離挙動とを検討することに意味があることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
上記の成果に記載したとおり、極性表面の評価に置いて必須となる、表面形成のための技術や、極性の判別方法、特に、多くに試料数を容易にこなすための比較的簡便な極性判定法が得られたことは、今後の検討を進める上で意義深いものとなっている。併せて、上欄には示していないが、光電子分光装置の開発を行っている研究協力者によって、光電子分光を励起するためのXの偏光方向を回転させ、光電子スペクトルの偏光方向(電場の振動面) に依存した計測を行うことを可能とするための、装置開発が開始されている。この装置が完成すると、結晶の分極方向と、それに直交する方向の電子の波動関数に関する知見を得ることが可能となる。このことによって、自発分極を持った結晶内で、化学結合、バンド構造が、結晶の自発分極に依存した特徴を示すか否かの評価が可能となる。そのため、次年度の検討に置いて、この装置の特長を活かした検討が可能となることは、非常に意味のあることであり、期待しているところである。
上欄に記載したとおり、結晶表面の形成、電子分光評価、さらに、研究協力者による、より高度な電子分光測定のための装置開発などに進展が見られており、これらを活用した極性表面の検討を続ける。さらに、化学特性評価のための、同位体トレーサーを用いた検討を加速する。ここでは、光化学反応による水分解反応などの表面反応の詳細な検討のために、重水などの、同位体をエンリッチした分子の表面反応を誘起し、反応後、試料内の同位体分布をマイクロプローブの質量分析計によって分析し、反応経路や反応生成物の拡散の様子などを明らかにする。これについては、すでに、予備実験を開始しており、例えば、極性による吸着の状態の変化や、反応後の反応生成物が固体中に侵入する様子など、様々な状態変化をトレースできると期待される。しかし、質量分析のみでは、反応生成物の分布を知ることが可能であるが、化学状態を特定することは不可能である。そこで、ラマン分光、あるいは、各磁気共鳴などの手段によって、化学結合状態の特定を試みる。同位体を用いることの利点として、ラマン分光のピークシフトや、天然の存在比では捉えることのできない核スピンを使った測定が可能である。例えば、質量数17の酸素を用いることによって、反応後の生成物の化学状態をNMRで捉えることが可能となる。こうした検討を重ねることで、極性をもった結晶の表面反応機構と、結晶極性との関係を明確にする。
試料として用いる酸化物半導体結晶の購入、反応のトレースのための同位体エンリッチ分子の購入、研磨に用いる消耗品の購入、および、試料の線上などに用いる溶剤等の化学薬品の購入に充てる。
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