研究課題/領域番号 |
23651083
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大川 浩作 信州大学, 繊維学部, 准教授 (60291390)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 水生付着生物 / イガイ類 / 接着物質同定 / 接着機構 / 接着タンパク質遺伝子 |
研究概要 |
海産無脊椎動物の内、特に大型の付着性二枚貝であるイガイ類に所属する生物の内、ミドリイガイ (学名 Perna viridis) を研究対象に選択した。ミドリイガイの足組織に含まれる接着物質生合成器官であるフェノール腺を採集した。イガイ類接着物質は翻訳後修飾されたアミノ酸を典型的に含み、多くの場合、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン (DOPA) および O-ホスホセリン (pSer) であることが知られている。ミドリイガイフェノール腺内から8種類のDOPA含有タンパク質を同定した。これらのタンパク質をPerna viridis foot proteins (Pvfps) と命名した。8種の内、最高分子量を持つタンパク質Pvfp-1のN末端アミノ酸配列分析を行った結果、N末端15残基以内に修飾アミノ酸が含まれることが明らかになった。現時点では未だ不明であるが、これらの修飾アミノ酸は、ある種の配糖体であるか、もしくは、pSerであると考えられる。pSerであった場合、これを自動分析する手段を申請者らの装置に最適化する必要が生じる。このため、淡水産付着生物の1種、ヒゲナガカワトビケラ (学名 Stenopsyche marmorata) の幼虫の付着性繊維タンパク質を試料として用い、ホスホアミノ酸自動分析の手法を開発した。さらに、幼虫絹糸腺のcDNAライブラリをスクリーニングし、当該付着性繊維タンパク質に含まれるホスホアミノ酸がpSerであることを明らかにした。さらに、およそ300アミノ酸残基の長周期構造を持つタンパク質の遺伝子クローニング手法を有効に行うための分析法についても検討を行った。上記の成果により、ミドリイガイ接着物質のcDNAライブラリー作成、および、翻訳後修飾様式・頻度解析手法をほぼ確立することができ、海産および淡水産イガイ類の両方に適用可能な分析手段を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究推進に関する当初計画では、海産および淡水産のイガイ類接着タンパク質室遺伝子の網羅的解析の最初の段階として、(i) cDNAライブラリーを構築し、次いで、(ii) 翻訳後修飾様式・頻度解析の手段を確立し接着機構を解明する予定であった。平成23年度の研究進捗では、(ii) の課題においてより多くの成果が得られている。接着タンパク質遺伝子の網羅的解析を行う研究対象は、イガイ類が持つ種々の生存戦略に含まれる接着機構のなかで、特に例外的なものは望ましくない。従って、イガイ同族の中で、極端に異なる翻訳後修飾様式を持つ種を (ii) の成果により迅速に除外することができるようになったと判断している。平成23年度の成果により、クローニング対象の種類について、海産ではミドリイガイ (学名 Perna viridis) および 淡水産ではカワヒバリガイ (学名 Limnoperna fortunei) の2種に限定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では、最初に、達成度記載の研究課題 (i) ミドリイガイおよびカワヒバリガイの足組織フェノール腺のcDNAライブラリーを作成する。次いで、これまでに収集した接着タンパク質のN末端アミノ酸配列情報をもとにプライマーを設計し、cDNAライブラリーからの接着タンパク質遺伝子のスクリーニングを行う。具体的な手法としては、イガイ類足組織フェノール腺からDOPA含有タンパク質およびホスホアミノ酸含有タンパク質を予め同定しておき、これらのN末端配列情報をもとにスクリーニングしたcDNAクローンがコードするアミノ酸配列を決定する。DOPAの前駆体はTyrおよびホスホアミノ酸の前駆体は、Ser、Thr、または、Tyrのいずれかであるので、接着タンパク質の化学分析から修飾率を予備的に定量し、前駆体コード領域のアミノ酸配列情報をもとに、修飾頻度・傾向がある程度判明する。これらの情報をもとに、翻訳後修飾様式と頻度に基づく接着機構の推定が可能となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策に記載した実験計画を実行するための部材および試薬の購入に主に充当する。cDNAライブラリー構築用の試薬キット、スクリーニング用キット(試薬類)、分注器類、および、塩基配列決定のための試薬、翻訳後修飾頻度解析のためのプローブ類試薬(ホスホアミノ酸抗体およびPhos-tag等)を購入予定部材として考えている。これらに加え、イガイ類足組織の免疫組織学的観察を行うことで、接着物質が足組織から頻繁に分泌される部位および多量の接着タンパク質前駆体を貯蔵する組織等の同定ができるようになると期待される。これらの組織の生理学的な研究は、平成25年度における研究計画に組み込む予定であるので、そのための予備的な知見を得るための実験資材の調達にも一部充当する。さらに、本年度は海洋生物学および付着生物関連科学を主体とする学会に参加する予定であるので、そのための予算も計上した。備品類の購入はいまのところ計画していない。主に現有設備を活用し研究計画を遂行する。
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