本研究では、重金属汚染の有無を簡便かつ高感度に判定するシステムの開発を目的とし、重金属が存在する場合にのみ選択的に何らかのシグナルが発生するプローブ分子の設計、開発を行った。重金属結合モチーフとしてラット由来のアミノレブリン酸合成酵素のプレ配列部分に存在するHRM(heme regulatory motif、CPモチーフとも呼ばれる)を利用し、HRMを含むポリペプチドの両端に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が可能な二種の異なる蛍光タンパク質KO1(吸収極大:548 nm、蛍光極大:559 nm)およびMiCy1(吸収極大:470 nm、蛍光極大:496 nm)を連結したプローブ分子では、プローブ分子のC末端に連結した蛍光タンパク質のフォールディングが効率よく進行しなかったことから、重金属結合モチーフとしてシアノバクテリア由来のSmtAタンパク質を用いた新たなプローブ分子の合成を行った。SmtAは、56アミノ酸残基から構成されており、その分子中に9つのシステイン残基を有している事から、銅、亜鉛、カドミウム等の重金属を効率よく結合することが可能である。本研究では、Synechococcus elongatus PCC 7942由来のSmtAを用い、その両端にKO1とMiCy1をそれぞれ結合したプローブ遺伝子を調製し、大腸菌中での発現を行った。その結果、大腸菌中において本プローブタンパク質の発現は、ほとんど観測されなかった。そこで、SmtA部分に金属イオンが結合した状態にすれば発現効率が上昇することを期待し、銅イオン、あるいは亜鉛イオンを添加した培地を用いて発現を行ったが、金属イオン添加の効果は観測されなかった。今後は、金属結合モチーフ部分の配列を最適化する必要があると考えられる。
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