研究課題/領域番号 |
23651096
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
李 艶君 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50379137)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | High-speed AFM / liquid / mapping |
研究概要 |
本研究は、『溶液中において固体表面の個々の原子を観察でき、そのダイナミックな現象を映像として捉えることのできる、高い空間分解能と時間分解能、物性計測機能を併せ持つ高速原子間力顕微鏡(AFM)を開発する』ことを目的とする。平成23年度では具体的に1)単原子観察条件の理論的検討した。探針の振動振幅や探針・試料間距離と信号対雑音(SN)比の関係を理論的・実験的に検討し、信号の帯域幅を狭めることなくSN比を高くして表面を観察できる測定条件を明らかにした。2)三軸アクティブダンピング法を用いた高性能・高速スキャナーを実現した。アクティブダンピング法を用いてピエゾ素子の共振を完全に打ち消し、位置決め精度が高く、高速に変位するスキャナー(共振周波数300Hz以上、Q値0.5以下)を実現した。3)光てこ変位検出計の高感度化・高速化を実現した。4)高速振動振幅・位相検出回路の低ノイズ化・高速化を実現した。振動振幅や位相測定に使用しているサンプル・ホールド回路の構成をシングルエンド型から差動変換型に変更することにより、サンプリング時の同相のスイッチングノイズをキャンセルし、大幅なノイズ低下を実現した。5)表面電位の高速測定法に関する理論的・実験的検討をした。探針・試料間に微小な交流電圧を印加し、カンチレバーの位相シフトに現れる交流信号成分から高速に表面電位を測定する方法について理論的・実験的に検討した。なお、高速測定を実現するため、電位フィードバックを用いずに高速演算により表面電位を測定できるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)単原子観察条件の理論的検討した.2)三軸アクティブダンピング法を用いた高性能・高速スキャナーを実現した.3)光てこ変位検出計の高感度化・高速化を実現した.4)高速振動振幅・位相検出回路の低ノイズ化・高速化を実現した.5)表面電位の高速測定法に関する理論的・実験的検討をしたことに成功した。このように、本研究目標を達成するための具体的な研究計画が順調に進展しているため。
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今後の研究の推進方策 |
研究を遂行する上で大きな問題点は生じておらず、当初の研究計画に従って研究を推進すれば、研究目的を達成できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)アクティブダンピング法によるカンチレバーの応答速度の高速化。開発した位相変調方式は、力の検出感度を低下させることなく、カンチレバーの応答速度を向上させることが可能である。すなわち、アクティブダンピング法(Q値制御法)を用いて、カンチレバーの実効的Q値を低下させても、検出可能な最小の力の大きさは変化しない。そこで、カンチレバーの振動振幅制御回路にアクティブダンピング回路を付加し、カンチレバーの実効的Q値を5から1に低下させ、カンチレバーの応答速度の高速化を実現する。2)単原子観察条件の実験的検討。溶液中において固体表面を原子分解能で観察するための条件を実験的に解明する。具体的には、前年度に改良した高速原子間力顕微鏡を用いて、位相シフト曲線(位相シフトの距離依存性)を測定し、様々なばね定数、機械的共振周波数、振動振幅に対する位相シフト曲線を理論的に導出する。この位相シフト曲線に対する信号対雑音比(SN比)を求め、信号の帯域幅を狭めることなく感度の最も高くなる観察条件を求める。3)ビデオレート(33フレーム/秒)での単原子観察と物性測定の実証。高性能化・高速化した位相変調方式の高速原子間力顕微鏡を用いて、ビデオレート(33フレーム/秒)で試料表面の原子レベルの構造と表面電位を高速観察できることを世界で初めて実験的に検証する。なお、試料としては、イオン結晶BaSO4 (210) 表面(電位測定のため背面に参照電極を設ける)を取り上げる。
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