薄膜高誘電体材料の開発は消費電力を極限まで抑え、効率的な電気デバイスの作製に不可欠であるが、従来の高誘電体材料は、薄膜化に伴ってサイズ効果やデッドレイヤー効果による比誘電率の減少を引き起こしてしまう。最近、層状化合物の剥離から得られる二次元ナノ結晶(ナノシート)を用いた積層膜は、このようなサイズ効果が発現せず、また単結晶であるために約10nmの厚さでも高い比誘電率を保つことが報告されている。 しかし、ナノシート1枚の比誘電率は評価されておらず、本研究では酸化チタンナノシートやCa2Nb3O10ナノシート1枚の誘電率評価を試みた。その結果、酸化チタンナノシート1枚の比誘電率を求めると、出発の層状物質の比誘電率よりも数倍大きくなる結果が得られた。通常、誘電体の誘電率は、膜厚が10nm以下になると減少するという報告あるため、これらの結果が正しいならば、この現象は誘電体に関する新しい正のナノサイズ効果となる。そこで本研究ではこれらの現象が真実であるかの確認と発現メカニズムについて調査した。測定システムとしては、原子間力顕微鏡の導電性カンチレバーを電極プローブとした、真空中等でも評価できるシステムを構築した。ナノシート1枚の比誘電率は出発の層状体よりも高い可能性があるデータは得られたが、酸化物ナノシート1枚を誘電体層とする容量素子を再現性よく作製することや評価することが装置の性能上難しく、メカニズムを考察するために必要な十分なデータを本研究期間内で得ることはできなかった。明らかになった課題としては、プローブ針と上部電極との高い接触抵抗を低減させる必要があることが示された。その他、ナノシートのリーク電流に関して、表面の吸着水によって表面抵抗が大きく変化することが明らかとなった。そのため、信頼性のあるデータを取得するためには、測定環境の湿度も精密に制御する必要があることが示された。
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